新潟動物ネットワーク No.91 |
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インターネットと現実 ~ボランティアに保護されている犬猫は福島県だけで1300匹以上いる~ |
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3月11日に発生した東日本大震災、そこでインターネットが大いに役だったことは間違いない。 しかし、決して良い面ばかりではない、その裏側を今回はお話ししたい。 ネットとは便利なもので、文章をそのままコピーできるし、リンクを貼れば見せたいページに飛んでしまう。そのため「動物を救おう!○○へ抗議のメールを送ろう!」と誰かがページを作り、動物を助けたい一心の人たちが集まるサイトに紹介すると、あっという間に「転載だ!」と広がってしまう。 一定の効果はあるのかもしれないが、抗議の先は対応に追われ、仕事どころではなくなる。 それと同じことが避難区域の市町村役場や保健所にも起こった。 ご丁寧にも「業務に支障をきたすので電話でなくメールやファクスで抗議しましょう」なんて添えられたページもあって、ただでさえ物資の少ない中、ファクス用紙がなくなったという部署もある。 私はこのとき、20km圏内の動物の生存情報を一覧にし、ある部署に報告しようとしたが、まったくつながらず、後で聞いたらそういうことだった。 ここで考えてほしいのが、避難区域の市町村役場、保健所で働く人たちも「被災者である」ということだ。例えば、よくマスコミに出ている南相馬市長に「動物を助けて!」と抗議を集中させるだろうか。大変そうで、とてもそんな気にはならないだろう。避難区域の行政職員だって同じ立場なのに、顔が見えないインターネットではそういう恐さを孕むのだ。 新潟動物ネットワークは避難区域の市町村に関わり、支援のため現地入りし、実際に行政の方々にもお会いしている。すると家がなくなったとか、身内を亡くしたとか、まだ行方不明中という方がゴロゴロいる。家族の遺体すら捜しに行けないのに「動物を助けて!」と抗議されているのだ。 もちろん私だって動物は助けたい。だから、こういう活動をしているのだが「抗議する先が違うんじゃない?」と感じるのは私だけだろうか。現実を想像しない「拡散!抗議!」なんてのは、どんなに動物を愛する心があっても無責任な行動につながっていくだけではないか。 もう一つインターネットの弊害を言えば「世の中がネットに頼りすぎる」ということだ。 被災していない私たちはいつも通りにネットを利用できる。でも、身一つで逃げてきた人はパソコンなど持ってこない。避難先でもネット環境が充実しているところは少なく、さらに高齢の方はほとんどが不得手だ。 そのため懸命に動物を保護してくださったボラ団体さんが、ホームページに保護情報を掲載しても、すべての飼い主さんの目には届きにくかった。 このような状況下で、南相馬市在住の渡辺さんという女性が保護動物情報をネット上から集めてパンフレットを作った。 渡辺さんご自身も被災しているので、同じ目線で必要な情報をブログで発信し続けた。転載するにも、すべて自身の目、耳、足で情報を確認して! だからこそ「ペット捜しは、ネットだけでは無理」と現実的に判断、まったくの個人だったのに立ち上がり、多くの方に呼びかけてパンフを作って印刷した。 パンフの第一便には約750匹の犬猫が掲載されている。第二便も8月に出るが、そちらは500匹。ちなみに、これは「福島県で保護された犬猫だけ」の数字であり、合わせたら約1300匹にもなる。意外と知られていない、これもまた「現実」なのである。 また、mixiで友人だった他県の動物ボランティア主催者から「新潟のように災害時にペットと同行避難できるよう行政のマニュアルに盛り込みたい」と相談を持ちかけられた。 今回の震災で「なぜ動物たちがこんな目に遭うのか?」。 それは避難計画に「動物が組み込まれていなかった」からだ。すべての根本がここにある。 計画がないから、実際に震災が起きると右往左往し、命あるものなのに後手後手になる。 新潟県はすでにマニュアルに組み込まれているが、県外の方でこの記事を読み、心配なら、地元行政に問い合わせてみるといい。そしてまだであったら(ほとんどの行政がそうだろうが)、ぜひ声をあげていってほしい。もしかしたら自分と自分のペットだって、同じ目に遭うかもしれないのだから・・・。 最後になるが、一つお願いがある。この1300匹以上の犬猫にすべて飼い主さんが見つかるとは限らない。 相当数の犬猫が「孤児」になるだろうし、「それをどうするか」という問題が浮上する日も遠くないだろう。 避難区域圏内の犬猫の救出ももちろん大切だが、保護されている子たちも全国のボランティアさんをはじめとする多くの方々が助け、つないできた命だ。これも見落とさず、「現実」として受け入れて、彼らの行く末を、ぜひ一緒に考えていただけたらと思う。 ■パンフ制作者・渡辺さんのブログ「新装開店 お庭にようこそ」 http://onyawan.blog93.fc2.com/ 南相馬市から新潟に避難され、犬を探していた人がおり、それがNDNのスタッフメールに回った。「この犬、見たことがないかしら?」と、現地でエサやりボラをしていた渡辺さんに打診したのがお付き合いの始まり。パンフ制作の活動は、全国のマスコミに取り上げられ、各避難所にも設置された。一時帰宅の中継所にも置かれ、事前にペットを見つける人もいて、限られた時間をペット捜索に費やさなくて済んでいる。渡辺さんは、NDNの南相馬市仮設での支援にもいらしてくださり、飛び入りで捜索猫相談に加わっていただいた。 ■南相馬市で動物にエサやりを続けた女性のブログ「田舎」 http://ameblo.jp/toro2940/entry-10943293296.html 福島に関心を持ったのは、このミキさんのブログから。震災後避難したが、すぐ地元南相馬市に戻り、地域の動物たちにエサやりを続けた。でもミキさんですら、一時は犬を置いてくるしかなかった。それほど凄まじく混乱した状況だったことをブログで語ってくれた。NDNでは、ミキさんが撮影した犬たちをポスターにして、新潟県内の避難所に掲示。ペットを取り戻しに行く避難者さんを支援した。また、新潟の避難所にいたペット連れの女性が南相馬市に戻り、ミキさんと合流。一緒にエサやり活動をして動物の命をつないでくださった。 |
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NDN新潟動物ネットワーク 譲渡班 三浦 真美 |
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平成23年8月1日掲載 | ||
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