新潟動物ネットワーク No.69 |
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犬たちの暑い夏 |
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わが家にはシイちゃんという犬がいます。家に来てまだ1ヶ月近く。この原稿を書いている私のそばでフカフカのクッションを自分の塩梅よく丸め、顔をうずめて寝ています。白くてとても可愛い女の子ですが、彼女の顔は傷だらけです。マンガで描いたギャングのようなキズも右頬にピーッとあります。 シイちゃんは「多頭飼育現場」の犬です。聞き慣れない言葉ですが、文字通り、多くの動物を飼育している現場のことです。たくさん飼っても動物を幸せにする飼い主さんがほとんどですが、新潟市秋葉区にあったこの現場は全国でも有数の劣悪な環境でした。数十頭いる犬猫に対しエサは週に2度ほど、しかも腐った給食や豚など家畜のエサ。現場はゴミ屋敷でもあったため、彼らは大量の廃棄物に埋もれ、ケージや木箱に詰め込まれ、散歩も掃除もされずに積もった糞の上で生活をしていました。NDNは平成14年6月から関わり、犬猫を年間30頭近くずつ譲渡してきましたが、飼い主がまた持ち込むといういたちごっこ。そんな過酷な生活で何十頭もの犬猫が命を落としました。シイちゃんはその現場を7年以上生き抜き、残った犬22頭のうちの 1頭です。 ここまで読んだ人は「飼い主から取り上げればいいだろう?」「何とかできなかったのか!?」と思うでしょう。でも、そんなひどい状況でも日本の法律では虐待と見なされず、さらに動物は「物」扱いですから「財産権」に守られ、飼い主から奪うことができないのです。また、「たかが犬のことで騒いで!」と言う人もいますが、犬はすでに人間社会に組み込まれた生き物であり、声を返せない弱い立場にいます。そんな「たかが犬1匹」すら救えない国の仕組みの方が私はおかしいと思います。 話すと長くなるのでもう省略しますが、その多頭飼育現場は昨年7月になくなり、生き残った犬たちは新潟市保健所で1年の保護期間を経て、今年の8月から NDNが世話をすることになりました。犬は現場から離れ、車が4台ほど入るガレージのような倉庫にいました。入り口のシャッターをガラガラガラッと開けるとものすごい熱気。冷房設備がなかったのです。冷夏といわれた今年でしたが、シャッターを閉めると倉庫内は気温32 度、湿度80%以上になることもあり、犬にとっては厳しい環境。熱中症で倒れてしまいます。そこで人海戦術!スタッフが交代で暑さが引ける夕方まで、シャッターを開けて換気をすることにしました。みんなでアイデアを出し合い、凍らせたペットボトルも持って行きました。 最初、犬たちは私たちスタッフに心をゆるしていませんでした。ケージ越しでも近寄ると隅に身を寄せる、体を触らせてくれない、散歩のリードを付けるのを嫌がる子さえいました。私自身、「トイレの躾もされていない、人に慣れない犬を誰が飼ってくれるのか?」と正直思いました。保健所職員さんがお世話してくださったことから、多頭現飼育場時代に比べると犬たちはだいぶ落ち着き、表情もよくなっていましたが、スタッフの多くが「この子たちの面倒を一生NDNで見ることになるだろう」と覚悟していました。 犬たちの倉庫へはこの夏いっぱいスタッフが毎日通いました。朝から夕方4時頃まで、ハーハーいう犬のそばでこちらもゼーゼー。犬も大変ですが、人間も体力的にかなりキツイ。でもあの暑さを味わうと「行かずにはいられない!少しでも涼しくしてあげたい!」と体が動いてしまうのです。そうしたら犬たちが次第になついてきました。何でしょう。ハーハー、ゼーゼーの呼吸が調和するように、犬と人が同調してきた感じでした。そして日を追うごとに両者の関係が変わっていきました。 人を避けていた子がそばに来て手をなめてくれるようになりました。 感情を出さなかった子がクーンと甘える声を出して、他の犬を可愛がるとやきもちを焼くようになりました。 身の回りが清潔になったらケージの中で糞尿をするのを嫌がり、散歩まで我慢する子も出てきました。 木箱に閉じ込められて育ったため、人に対してはただブルブル震えるだけ、まったく心を開かなかった子が散歩をするようになり、なぜている間に眠りました。この子は外が恐くて出られず、踏ん張って、すり傷を作ったこともありますが、赤ちゃんのようにやわらかった足裏の肉球がすっかり硬くなりました。彼が勇気を振り絞って外(散歩)に出た、とてもがんばった証です。 ボランティアって暇な人がやっているように思われがちですが、NDNのスタッフは仕事を持ち、しかもバリバリ働いている人が多いのです。だから犬と一緒にいるために時間を捻出し、後ろ髪を引かれながらも家族や彼氏を置いて参加しています。中にはこの夏の休日すべて、犬に費やしてくれた人もいました。でも義務感だけでなく、こちらも癒されていたのです。生き残った犬たちは修羅場をくぐってきただけあって、とても魅力的な子ばかりでしたから。「良い飼い主さんに巡り会えばいい」と願う反面、離れるのが辛くなりました。でも、そこまでみんなで可愛がったからこそ、犬たちは人を信じ、好きになってくれたのかもしれません。愛情って時間や想いなど、自分を分け与えることだと思いました。 暑い夏を終え、今は全頭がスタッフ自宅保護となりました。一般家庭に入ったらあっという間にトイレをおぼえ、お手やおすわりまでできるようになった子もいます。「あんな多頭飼育現場で育ったからこの子たちは汚くてもだいじょうぶ。不味いものも食べる」と思っていましたが、それは人間の思い込みで、本当は多頭の子だって、きれいなところで暮らしたいし、美味しいものが食べたいし、今のシイちゃんみたいにフカフカなクッションが大好きなのです。 シイちゃんは、現場で1番の「狂犬」と呼ばれ、近寄る人に吠え、咬み付き、しまいに脱走して麻酔銃で撃たれたという経歴があります。現場の犬小屋には「危険」の貼り紙があったそうです。NDNのHP「今までの経緯:2006 .6.15 現在(http://www.h6.dion.ne.jp/~ndn/keii3.htm)」にケージ3頭が詰め込まれた写真がありますが、シイちゃんはその真ん中の犬です。彼女が生んだらしい子犬2匹と伏せもできない狭いケージに閉じ込められています。この夏、彼女は脱走をもくろみ、脱獄犯のように1本1本ケージの網を折りました。顔の傷はその時に作ったものです。ケージが大嫌いなのでしょう。また保護後、初めて病院で診察しましたが心臓がかなり悪くなっていました。夏の暑さは彼女にとって苦しく、ケージの外に出たかったのでしょう。気付いてあげられずかわいそうなことをしました。 そんな「狂犬」シイちゃんも、スタッフに愛情を注がれた今では、吠えも、咬みもしません。保護者の私とはどこに行くにも一緒で、保育園の運動会、バーベキュー、海、祭り…行く先々で「大人しい子ね」「優しそうな顔」とほめられるようになりました。子どもにも頭をなぜられています。シイちゃんは水遊びが大好きで、毎日のように新潟県立スポーツ公園に行き、そこの小川にパチャパチャ入っています。もし会ったら声を掛けてください。そうして多頭の子を見てあげてください。この子が吠え、咬んだのではなく、環境がそうさせていたことが理解できると思います。 「一生面倒を見ることになる」と思った犬たちですが、お陰様で12頭が譲渡され、6頭が仮譲渡先でお見合い中です。もらわれた犬たちは素晴らしい飼い主さんに恵まれ、幸せに暮らしています。でも、まだ譲渡先が決まっていない子もいます。関心のある方は下記のHPをご覧ください。とても、とても可愛く、がんばっている子たちです。どうか、よろしくお願いいたします。 そしてもう一つお願いが。2度とこんな現場が生まれないように「社会の眼」を、みなさんの眼を光らせてください。シイちゃんの元飼い主は自分がボランティアだと名乗り、犬を集めていました。また「多くの犬がいて楽しそう」と現場を見ていた人もいたそうです。でも「よく見れば」まったく違うことがわかります。どうか、このような歪みが社会にあることを知り、周囲をよく見渡してください。声をあげられない犬たちを見守ってあげてください。心からお願いいたします。 最後に、この犬たちの命をつないでくださったたくさんのみな様、ここに書ききれず申し訳ありません。深く、深く感謝いたします。 ■多頭の犬たちが参加する譲渡会 日時:2009年10月12日(月・祝)午前10時~14時 場所:JRA新潟競馬場 主催:新潟市北区様 「キテ・ミテ・キタク」イベント内 日時:2009年10月25日(日)午後1時~4時 場所:未定 主催:白根青年会議所様 イベント内で講演と譲渡会 ■参考HP バックナンバー>新潟動物ネットワーク>No.8「多頭飼育班の活動について」 http://murakami21.com/i2001jyouhou/doubutu-net/doubutu-net-h16.08.htm 新潟動物ネットワークHP>今までの経緯や現場の悲惨な状態など http://www.h6.dion.ne.jp/%7Endn/ 新潟動物ネットワークHP>飼い主さん募集 http://ndn2001.com/ndn/tatou/jouto1/jouto.html |
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新潟動物ネットワーク/多頭飼育現場改善班 三浦 真美 |
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平成21年10月1日掲載 |
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新潟動物ネットワーク 090-2844-4881 メールndn2@ndn2001.com http://ndn2001.com 新潟県動物ネットワークさんから、切実なメッセージを戴きました。 もう一度ペットとはを考えてみませんか・・・・ ※里親になってくださる方はこちらから※ http://www17.plala.or.jp/ndn/ |
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