http://www.murakami21.com 村上広域情報誌2001
   新潟動物ネットワーク  No.83

見果てぬ猫の楽園

「おーい、捨て猫のコロニーを見つけたぞ!可愛いからお前も見に来いや!」

私が友人からそんな便りを聞いたのは、紅葉も深まった昨年秋だった。場所は某スキー場の近く、野生の木の実がたわわに実る雄大な自然に囲まれた田舎である。踊る胸を押さえ、教えられた通りに無人の農作業小屋を目印にして行ってみた。いるわいるわ、多くの子猫が私の元へ群がってきた。ズボンの裾に頭を突っ込む者、洋服の襟元に入りたがる者、甘噛みしようとする者、かなり熱烈なお出迎えである。たしかに愛らしいのだが、しかし少々の不安が私の心を過ぎった。この子達は、冬になったらどうなるのだろうか?だが、おそらく通りがかりの人々が置いて行ったであろう餌はある。そして雪を凌ぐ小屋もある。私は「おそらく何とかなるだろう」との甘い幻想を抱き、そこを”猫パラダイス”と名づけた。

そして冬は来た。雪が降り積もる中、久々にそこへ行ったのであるが、そこで見た現実に激しい衝撃を受ける事態となった。どの猫も風邪をひき、顔がグシャグシャにただれている!力なく泣き叫ぶその姿に、私の胸は張り裂けそうになった…。何がパラダイスだ。これではまるで地獄ではないか。私は早急に友人と連絡をとり、共同作業で奴らを救う事にした。雪をかき、吹雪を遮断出来る様に工夫した小屋を作り、毛布を用意し、使い捨てカイロを置いた。しかしそこは遠方である。毎日訪れる訳にもいかないし、四六時中監視している訳にもいかない。ついに後日、小屋の中で子猫が凍死しているとの報告を受けてしまった。たまらない気持ちになった私は、友人にこう言った。「もう止めようや。こんな事やっても焼け石に水だ。俺らがいくら頑張っても、大半の人間は知らんぷりでまた猫を捨てに来るんだよ。それになあ、弱い生き物は死ぬしかないんだよ。それが自然の摂理ってえもんだ。このご時勢、俺もお前も仕事や会社がどうなるか解ったもんじゃないんだ。弱い者に情けをかけるお優しい心じゃあ、この先やって行けないんだ!」

彼も一応納得した。今思えば、ずいぶん酷い事を言ったもんである。無茶苦茶な屁理屈ではないか。しかしいくら理屈を並べても、暗がりの中で孤独に凍死した子猫の姿が頭を過ぎる。もう理屈で自分を納得させるのは不可能であった。その後、そこの猫はほぼ全滅したという知らせがあった。そこで私は、以前から興味のあった新潟動物ネットワークを訪ねる事にした。そこに行けば、何かしら解決策でも見つかるかと思ったからだ。

そして入会させていただいた感想であるが、良識的な方々が正統的な手法により、本当に地道に活動を続けているという印象であった。流石である。それだけに、こういう問題を一足飛びに解決する裏技などないと気づくのに、さほど時間はかからなかった。それは当然である。何でもそうだと思うのだが、真っ当に物事を進めている限り、劇的な奇跡など起こらないのが普通なのだ。それが世の真理であり、だから皆は苦労するのである。又、そこには猫パラダイスどころの騒ぎではない、悲しい事例が溢れているという現実にも驚愕した。動物たちにとって、つくづく世の中というのは酷なものである…。動物を救うのは、結局の所、人間達の地道な努力しかないのである。

私には慈愛の精神や高級な倫理観などはない。それほど立派な人間ではない。ただ動物と一緒に居ると心が満たされるし、奴らが苦しむのは悲しい。そして動物のために働くのは楽しいのである。それだけだ。野良猫は、絶対に人間に心を許さない。あいつらを見る度に、私はこう思うのである。「嫌われても良い。人間なんぞ信用しなくても構わないから、とにかく生きろよ」
新潟動物ネットワーク/猫班
 脇川 正人
平成22年12月1日掲載


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7 学校啓発班の活動 8 多頭飼育班の活動について
9 フリマの活動について 10 動物虐待を考える
11 レクレーション活動について 12 中越地震における新潟動物ネットワークの対応
13 「お礼状発送係り」を担当して 14 2004年度会報作成を担当して
15 携帯当番を担当して 16 ボランティア活動とお金
17 “動物好き”に翻弄される動物たち 18 「生きる使命を与えられた動物たち」
    ~猫の一時保護を通して~
19 パネル展と講演会のお知らせ 20 一時保護で変わる犬の運命
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