新潟動物ネットワーク  No.240


縁は異なものネコなもの♪


 「Mさん。今、農舎小屋に猫いる?」
「3日前まで、ちっこいのがぴぃ~ぴぃ~言っていたけど、昨日あたりから聞こえないかなぁ~。もしかしたら、その辺でぺっちゃんこになっているかもね。」

当時、葬儀会社に勤務していた私は、大切なご家族様を喪失された代わりに新しい家族として猫をご希望される方へ、客先から聞いた猫情報を元に、猫の橋渡し役を行っていた。
今、新潟動物ネットワークのスタッフになり、当時の軽はずみな行動は、深く深く反省をしている。

「Mさん。それって? どういう事なの?」
「猫が欲しいなら、裏の小屋とその奥の小屋にいっぱいいるから勝手にもって行って。」
今までにない、Mさんの言い捨てたような言葉遣いが気になり、業務中でしたが急遽Mさん宅へ向かう。

Mさんとの付き合いは、お母さん・お爺ちゃん・お婆ちゃん・お父さんのご葬儀を、お手伝いした関係で、年に数回お伺いするお宅。一人娘のMさんは、この大きなお屋敷に一人で暮らしている。

 

玄関先の呼出ホーンをならすと、奥の部屋からMさんが顔を出し、無言のまま農舎小屋の方向に指をさす。「あの農舎小屋にいるの?」
「もう~鳴き声が聞こえないから、ぺっちゃんこになって、食べられちゃったかもね。」
その言葉に驚く私。ぺっちゃんこって…。食べられるって…??? 誰が食べるの???
「一緒に行ってくれる?」と同行をお願いし、恐る恐る入る農舎小屋。

農舎内は、猫達が騒いだ痕跡と糞尿臭。式典用のハイヒールを履いていた私は、どこに足を置いたら良いかわからない。
「確か、この辺でぴぃ~ぴぃ~聞こえていたけど居ないね。」
無数の猫達が、私たちの声に反応して物陰から走り去る。
何匹いるのだろうか? 初めて見る、多頭崩壊現場。

ずっと、ずっと、のちにMさんから聞いた話。
腹を空かせた野良猫が、持ち主がいなくなった農舎小屋に来たのを見て、確か父は優しい顔をして話しかけながらご飯を上げていたなぁ~と思い出し、その日からお父さんに替わって野良猫に、ご飯を上げ始めたという。
あれから、3年の月日が流れ、気が付くと数えきれないほどの猫数に。
 
「何匹いるの?」
「わからない。数えた事が無いからね。年々、野良猫が集まってきて…10匹以上はいるかなぁ~? 本当は、手術をしたら良いのだろうと思うけど…。私、無職だから…お金が無い!だから出来ない!!」と言いスタスタと自宅に戻ってしまった。Mさんは、お父さんの看病・諸事情の為、仕事を退職したままだった。

事務所に戻り、珈琲を一杯飲みながら猫好きの事務員に、Mさんの件を話す。
「NEXT21で、譲渡会とかしていますよね。確か、主催は猫の愛護団体だったような…。」
さすがぁ、猫好き事務員!
早速、ネットで検索すると、今週末にNEXT21で新潟動物ネットワーク主催の譲渡会が開催される。相談に行って来よう。

譲渡会当日。
出来れば、ゆっくりと話を聞いて欲しいと思い早めに到着。
譲渡会の会場作りをしているスタッフが大勢いる、どなたに声を掛けたら良いかわからない。
えぇい! 勇気を出して「あの~。ご相談したい事が有りまして…。」手に汗をかきながら声を掛ける。「どうしました?」と振り向いてくださったのは、恐れ多くも新潟動物ネットワークの岡田代表。身振り手振りでMさん宅の件を、暑くもないのに汗をかきかき話す私。
「あっ!丁度よかった。貴女の地域を担当してくれているスタッフが今いるから。」と話がとんとん拍子に進む。一度、現場視察に来て下さるという有難い約束をして、帰宅をする。

現場視察当日。
平日の夕刻にも関わらず、岡田代表と地域担当スタッフさんが、ご自身の仕事を終えてお疲れのところ遠い我が地域まで現場視察に。
早速、2カ所の農舎小屋へ。1か所の農舎は、常に猫達が寝床にしている小屋。
もう1ケ所の農舎は、わら置き場でお産や子育てをする小屋。
寝床にしている農舎のドアを開けると、トトロの森に出てくる1シーンのように、まっくろくろすけが走り去るがごとく、猫達がガサガサと走り去る。
暗くて、数えられない。Mさんに頭数を確認する。
「11頭はいるのね。あと、仔猫が3頭ね。そうね! 仔猫は保護して、成猫は手術をしたらリリースをします。経費が掛からない方法を考えて来たから、すぐに申請手続きをするわ」と次から次へとサクサク段取りがされて行く。

捕獲開始。
手術日前日、12台の捕獲器搬入。日没から、現場の農舎小屋に捕獲器設置。
初めて見る捕獲器にドキドキ。
緊張する私の横で、手早く捕獲器に仕掛けをするスタッフさん「こんな感じで、ペットシーツで捕獲器を包んで!そこを・・・・。」言われるがままに、必死にお手伝い(?)邪魔をする私。

いよいよ、捕獲器設置。
暗闇の中、捕獲器を両手に持ってスタスタ歩いて行くスタッフさん。私は後ろから置いて行かれないように、捕獲器を斜めにしないようにと慎重について行く。
寝床にしている農舎小屋に到着すると、この辺りに1台置きましょう。次はここね。よく、猫の通り道がわかると不思議に思いながら指示に従いながら12台の捕獲器を設置し静かに出る。
出た直後、農舎小屋から『カッシャン』音がした。あっ! 掛かった。その後は、次から次へと猫達が捕獲器の中へ吸い込まれてゆく。あっという間に、Mさん宅の猫置き場が満室に。

その後の深夜近くに行った見回りも、スタッフさんが来てくれ色々と指導をしてくれた。ボランティア活動とは言え、プロ意識を強く感じた瞬間。
 

 

さて! 残り2頭…。スタッフさんの指示通り、捕獲器のおとり用餌を新しい餌に交換し、再び捕獲開始。Mさんから、お昼近くに電話が入る。「散歩に行っていた2頭が捕まった!」
良かったと安堵し、再び動物病院へ運搬する。これで捕獲終了!!
成猫11頭と仔猫3頭の計14頭。

日没近くに手術が終わり、お迎えに行くとオス5頭の去勢手術メス6頭の不妊手術が終了していた。

驚いた事にメス全6頭が妊娠していた。少し辛さあったが、不幸な猫が増えない為にも中絶・不妊手術は必要。もし行わなかったら、妊娠していた6頭のメスから5頭ずつの仔猫が生まれると30頭もの猫が増える事になる。そして、次の季節になるとその倍に! これが、ネズミ算ならぬ猫算!!

   




 この時のNDNスタッフブログ掲載記事(2020.10.01)
https://ameblo.jp/ndn-joutokai/entry-12628697922.html

* * * * *

この農舎に住み着いた猫達の手術費用は、岡田代表とスタッフさんが懸命に動いてくださって、NDNの猫の手募金を使用させていただくことに。
全てボランティア。時間もガソリン代も労力も器材も、そして惜しみないご指導、ご協力をいただき、これは感謝という言葉しか見つからない。

その後…Mさんは、今も農舎に住み着いた猫たちに、亡きお父さんのように毎日ご飯を上げている。

小春日の日、私の携帯電話に岡田代表からメッセージが「新潟動物ネットワークのスタッフになりませんか?」いつかこのお礼をしたいと考えていたので、その有難い言葉を謙虚に受け、微力ながら新潟動物ネットワークの仲間入りに。

5月連休明けの月曜日、携帯電話が鳴る。「井上さん、猫が仕事場のがれきの中で仔猫を生んだぁ! 母猫は、俺たちにビックリして逃げていってしもだぁ。仔猫が冷たくなってきたぁ~。」
えぇ~ぇ! 運悪く遠い場所にいた私は、迷わずMさんにお願いをする。
「早く、仔猫を動物病院に搬送して!」Mさんは猫の救急車のように、現場に急行し、急いで動物病院に搬送する。まだ、へその緒が付いたままの80gの小さな小さな仔猫の命。
仔猫を見つけてくださった現場の人、救急搬送してくれたMさん、そして手早く処置してくださった獣医さんのおかげで、4匹の小さな命は助かった。

 
がれきから救出

      
救出直後、動物病院にて撮影

その後、育児に奮闘する私。3時間おきの授乳・排泄補助。仕事で留守中のミルクボランティアは、もちろんMさんが当時のお礼にと代理乳母を務めてくれた。その仔猫たちも日々大きくなり、ご縁を戴き旅立つ前日になると必ず大粒の涙を流しながらお別れをするMさん。仔猫たちは、各々幸せにゃんこへ。

 
生後2週間


生後2ヵ月

時が過ぎ、多くの事を猫達から教えてもらった。この猫を通してのご縁。
これからも、私は新潟動物ネットワークの一員として全力で取り組み、人と猫がいつまでも、いつまでも幸せでありますようにと願い頑張って行く( `―´)ノ

* * * * *

このような不幸な現場がなくなることが目標です。
猫の手募金へのご支援をよろしくお願いいたします!
【猫の手募金】
郵便局振込口座 00500-1-73548
口座名:新潟動物ネットワーク
お手数ですが、通信欄に「猫の手募金」とご明記ください。
ご案内 http://ndn2001.com/cat_collection_of_funds_0.php

新潟動物ネットワーク/猫班
井上 和美
令和6年1月1日


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