新潟動物ネットワーク No.199 |
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畜産動物に目を向けよう! |
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立て続けに、ペットではなく畜産動物の話題になります。 NDNでは具体的に畜産動物たちに何かのアクションを行なっている訳ではありませんが、勉強会やイベントを通してペット以外の動物たちの現状を知ることで心の底からの驚きと、「同じ命」として、これまで何の考えもなく過ごしてきたことに大きく恥じる気持ちと、これから何ができるのか考える機会が増えました。 そんな中、昨年、NDNフェスティバルで「アニマルウェルフェア(動物福祉)」をテーマにお招きした東北大学名誉教授 佐藤衆介先生からのSOSが飛び込んできたのは5月24日でした。畜産動物を伝染病から守るための法律が改正されることになり、飼養方法を大きく制限する深刻な問題が起きているとのことでした。 「放牧制限の準備」「舎外飼養の中止」 ・・・・・最初は何のことかよくわかりませんでした。しかし、何度も読むうちに、これは大変なことだと気がつきました。生産者だけでなく、私たち消費者にとっても、日本の将来にとっても、決して容認できない極めて重大な問題が、ほとんど誰も知らないまま変えられようとしている・・・そして、法改正について広く国民に意見を仰ぐパブリックコメントが行われていて、私たちが声を上げられるのは6月11日までだということもわかりました。 結論から言いますと、多くの方に発信された結果、わずか3週間足らずの間にパブリックコメントには2079名の意見が寄せられて放牧の問題は回避されました。一人ひとりが危機意識を持って行動した結果だと思います。しかし、こんなに大切な法改正なのに、一般紙やテレビでニュースとして取り上げられることはほとんどありませんでした。食というのは生きることの基本です。少しでも多くの方に何が起きたか知っていただけたらと思います。 <経緯> 日本では豚熱(豚コレラ、CSF)の流行により14万頭もの豚の殺処分が行われ、感染予防のために豚へのワクチン接種が開始されています。ワクチン接種後、豚熱感染は収まっているように見えますが、感染源の1つと言われている野生イノシシは生息拡大を続けており、農家さんの危機管理は今も続いています。また、中国や韓国で発症しているアフリカ豚熱(ASF)はワクチンがなく感染したら防ぎようがありません。日本に入るのを阻止すべく水際対策の強化が叫ばれています。このような流れの中で、伝染病予防について、今まで以上に厳しい法改正が行われることになりました。佐藤先生から問題だと指摘されたのが「放牧中止」に関する項目です。 <現在の畜産の形態> まず、私たちが日頃、命をいただいている畜産動物たちはどのような環境で飼養されているのでしょうか? 普段、テレビで見る風景の多くが「牛」ですが、のどかなイメージですよね。では豚はどうでしょうか? 鶏は? 現代の日本では、ほとんどの家畜たちが「畜舎」の中で飼われています。つまり、建物の中で家畜が飼われているということです。畜舎もタイプが分かれ、外の風や光を感じることのできる「開放型」と、外の影響を受けないようにと考えられたウインドレスと言われる「閉鎖型」があります。この他、野外飼養の放牧やパドックと呼ばれる運動場を持っている場合もあります。鶏だったら同じ屋内飼育でも、小さな檻に入れられているケージ飼いや、囲われた空間に集団で過ごす平飼いなどの違いもあります。豚の場合は全国約4300の養豚場のうち放牧は約140農場とのことです。 <何が起きようとしていたか> 今回の改正では、豚熱ウイルス陽性の野生イノシシが見つかった地域とその隣県を「大臣指定地域」と指定して、放牧ができなくなるということでした。新潟も含む24都府県に上ります。それ以外の地域でも、豚や牛、ヤギなどを放牧しているところは、伝染病が起きた場合に備えて畜舎を用意することが盛り込まれました。牛は乳用牛で総飼養頭数の23%に当たる約30万頭、肉用牛は繁殖雌牛の17%の約11万頭が該当します。これらの農家さんがほとんど知ることなく、飼養形態を制限する法律の改正が行われようとしていたのです。 <何が問題なのか> 放牧養豚農家はわずかだから中止しても良いのでしょうか。放牧している牛や羊たちを収容できる畜舎を作るのは妥当なのでしょうか? 実は、「放牧だから危ない」という科学的な根拠はなく、今回の豚熱の拡大は放牧農家さんから起きていることでもありません。新型コロナウイルス感染症でわかる通り、3密を避けることが感染予防の大前提で、そういう点からは放牧は最も優れている方法かもしれません。家畜ができるだけ動物らしく生き生きと過ごすアニマルウェルフェアフードを私たち消費者は安心安全な食品として選択する権利もあります。そもそも、放牧畜産は畜産業の1つのジャンルです。自然な放牧スタイルの小さな農業に若い方の関心が集まっているそうです。衰退傾向にある畜産において「放牧」は未来の可能性の1つとも言えます。どのような形態で取り組むかは農家さんの自由意志ですし、どうやったら多様性のある農業を守れるかこそ、国が考えるべきです。特に、酪農の場合は山を利用して放牧する「山地酪農」というスタイルもあります。耕作放棄地を使うことのメリットにも最近は注目が集まりつつあります。畜舎に入れることだけが感染予防の形ではありません。また、感染症対策として使役動物の排除や野良猫の駆除も決められることがわかりました。地域猫もダメだと書かれており、大変驚きました。 <結果と、これから> アニマルウェルフェアを学び始めてまだ日が浅いNDNですが、ブログやFBを通して情報を発信したほか、動物福祉とリンクする動物愛護団体や関係機関、飲食店の方、議員さん、様々な方に呼びかけをしました。全国でも生産者さんを始め大きなうねりが起きて、農水省から6月30日に正式に発表がありました。大変心配していた豚の放牧はいくつかの条件をクリアした上で継続できることが決まりました。牛や羊や山羊についても、放牧できなくなる時に備えて畜舎を用意することは必要ないと決まりました。また、愛玩動物も牧羊犬などの使役動物も、衛生管理区域の見直しで飼育継続できることがわかりました。 「食」としての畜産動物たちは本当はとても身近な存在です。農家さんの顔が見える野菜やお米と同じように、畜産農家さんの顔が見える畜産物をいただく。そんな関係ができたら良いですよね。だからこそ命の尊さがわかります。人だけが大切ではなく、犬や猫だけが大切ではなく、同じ命としてどうあるべきか、命をいただく消費者として、これからも考えていきたいと思います。(同じく、6月23日締め切りの飼養衛生管理指導等指針案への意見もアニマルウェルフェアに配慮して欲しい旨の意見書を提出しました。 ) <NDNが提出した意見> 1-9 放牧制限の準備について 削除を求めます 3ー28 大臣指定地域では放牧場、パドック等における舎外飼養を中止すること 削除を求めます 理由1、就業の自由の侵害 放牧畜産は畜産業の1つのジャンルです。今、自然な放牧スタイルの農業に、徐々に社会の関心が集まっています。衰退傾向にある畜産において、「放牧」は未来の可能性であり、就業の自由でもあります。付加価値のあるブランドとしての小規模農業の選択肢を、国自らが否定してはならないと考えます。どうやったら多様性のある農業を守れるかこそ、国に考えていただきたい。 理由2、科学的な根拠がない 放牧養豚からの感染はなく科学的な根拠はないにも関わらず、放牧という農業形態があたかも「汚いもの」「危険なもの」として、日本の農業から排除されようとしています。そもそも、日本の畜産は大規模化が進んでおり、放牧畜産という全く別のジャンルの畜産形態を同じ指針で規制することには無理があります。 理由3、感染防御の別の形もある 「徹底した消毒と外部との隔離」によって感染防御をしようとしています。しかし、ウイルスを完全に排除できないことは歴史と科学的な見地から明らかで、どう共存するかが人類の課題です。人間でも言えるように適度な運動と太陽の光を浴びること、本能を満たした環境で飼育することでストレスから開放され、自己免疫を高めることは、別の形での感染防御の武器でもあります。抗生剤に頼らない、過度な消毒に頼らず動物本来の生きる力を利用した放牧畜産の価値を、違う視点から考えていただきたい。 理由4、消費者の権利 私たち消費者は家畜ができるだけ動物らしく生き生きと過ごすアニマルウェルフェアフードを安心安全な食品として選択する権利があります。これを奪うことは、消費者の食の自由への侵害と考えます。放牧飼育の畜産品に価値を求めている消費者がいることを忘れないでいただきたいのです。国内に求められないとなると海外に依存するしかなくなってしまいます。 理由5、法律のあり方 どのような方法も模索できない結果としての禁止でない限り、どうしたら既存の形態を維持できるかを考えることが国の役割だと思います。国の安全を守りたいという気持ちはわかりますが、そこを履き違えると未来の日本に負の財産、取り返しのつかないことになると気づいていただきたい。 1ー11 愛玩動物の飼養禁止について <意見> 1、愛玩動物の飼養を禁止とせずに努力義務とすること 2、使役動物はこれに含めず、共通感染症の観点から畜種によって飼養できない動物を提示する。(必要であれば飼養動物を申告制とする) 3、動物愛護法との整合性を図ること 理由1、人と動物は共同体として役割を果たしています。イノシシやサルの追い払いには使役犬という存在があります。牛や羊を追う使役犬もいます。一律の禁止は長年培ってきた農業の知恵を捨てることになり、農業における別の観点からのメリットを無視しています。共通感染症対策として、例えば豚舎での猫の飼養は禁止するなど、何がだめで何が良いのか(許されるのか)を決めるべきと思います。 理由2、野良猫はどこにでもいます。野良猫も「愛護動物」と定義されており、動物愛護法によって自活できている場合は駆除しないことが前提となっています。動物愛護センターでは引き取りを拒否できます。これを別の場所に移動することは飼い猫にしない限りは「遺棄」となります。 今回の改正では衛生管理区域外に移動することと書いてありますが、移動する場所がないにも関わらずこれを規定することは違法行為を認めることになります。 理由3、よって、今回の改正では使役動物を除いた愛玩動物については飼育しないことを努力義務とし、動物愛護行政と連携して野良猫の減少に努めることが妥当と考えます。 *豚はお隣の長野県で放牧養豚を営んでいる安曇野放牧豚さんです。5月15日に突然、家畜保健所から放牧が禁止になると言われたそうです。「夏の暑い日には泥の中で水浴び!」「寒さの厳しい冬は雪の中をかけっこ!」 http://azuminohoubokuton.com |
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*牛はNDNの里親さんのご家族が経営している八丈島乳業です。完全放牧で畜舎を持たずに酪農を行なっています♬ https://www.hachijo-milk.co.jp |
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全ての命が地球上の同じ仲間です。 その言葉をしっかりと受け止めながら、食としての畜産動物たちに寄り添えるようになりたいものです。 |
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