新潟動物ネットワーク  
No.203



        
        熊と人の共存活動

       ~軽井沢のクマ保護管理の体験記~(前編)

 


長野県軽井沢で熊との共存を目的とした保護管理活動を行っているピッキオについて、前編と後編の2回に分けて紹介していきます。前編では熊との遭遇予防活動に、後編では罠にかかった熊たちの救助活動に焦点を当て、ピッキオでの私と主人のボランティア体験を通し自然との共存と保護について感じ学んだことをレポートします。

昨年、新潟県内において捕獲されたツキノワグマは( クイズ ① )頭(解答はこの記事の最後)、過去10年間で最高(環境省公表データによる)。この「捕獲」とは熊の場合「捕殺」を意味します。つまり「捕える=殺す」ということです。しかし人間活動を要因としたさまざまな環境問題は、近年人類を含む全ての生き物の生存基盤に多大な影響を地球規模で及ぼしています。自然との共存を真剣に考え実行していかなければ、次の世代に残す自然は無くなっているのではないでしょうか。そんな思いを抱きながら9月2日から8日までの8日間、ピッキオにてボランティア兼取材活動をしてきました。

6月から11月の半年間、ピッキオ熊チームメンバーの主な仕事は熊と人、双方の命と暮らしを守ることです。それは毎日の並々ならぬ努力によって成し遂げられています。彼らの仕事は24時間 週7日続きます。朝・昼・夜シフトに分けられ軽井沢に住む熊をリアルタイムで調査し、その結果に応じて対処しています。それでは私達の各シフト体験を紹介しながら熊チームメンバーの一日を追ってみましょう。


夜10時シフトが始まります。必要な物は地図、電波受信機、そしてGPS機。真っ暗な夜の街と森の中を車で走り、いくつかの電波受信スポットへ。熊たちが付けている首輪型電波発信器からの電波を受信し、彼らの位置を1頭ずつ異なる地図に記入します。確な位置を確認するため1頭につき3スポットからの電波受信・記入作業を行います。これを一晩中およそ30頭前後の熊全てにおこなうことにより、どの熊が街に近づきすぎているかを特定していきます。早朝4時、ピッキオのオフィスに戻り朝シフトのメンバーに要注意熊と彼らの位置を報告、対策を決定します。

朝シフトに参加するため早朝4時にオフィス到着。この日は3頭の熊が要注意との報告を夜シフトメンバーから受け直ちにベアドッグを使った追い払い作業に出発します。この朝のペアドッグは「エルフ」。太陽が昇る前、畑の間の道で車を降り、受信機で位置を再確認。その後、森へ入りエルフが匂いでスタッフと共に熊を追跡し森へ誘導していきます。この時、ベアドッグはスタッフの安全を確保するため熊の匂いや音でその位置を知らせるという大事な役目も担っています。人家付近は来てはいけない場所であること、人が動き出す時間の前には森に帰らなければいけないことを熊に学習させることにより、人と熊との遭遇を未然に防いでいきます。3頭の熊の対処が終わりオフィスに戻ると既に朝9時。報告と書類記入作業を行うスタッフに申し訳なく思いながらも私達はベッドへ行かせてもらいました。

昼シフトメンバーには臨機応変さが求められます。優先順位のトップは常に熊。罠に捕らえられた熊がいるとの電話があれば何をおいても急行します。多い日には一日2件から4件も緊急電話がかかってきます。麻酔銃を撃つことのできるスタッフそしてベアドッグの数とそのハンドラースタッフの数が限られているため、休日返上の日が続きます。軽井沢だけではなく近隣の町そして遠くは安曇野からの依頼を受けているため、数時間かけて現場に向かうことも珍しくありません。(現場でのレスキュー活動については後編で紹介します。)これらの罠にかかった熊は他の地域であれば殺されてしまうことが多い状況です。熊チームスタッフは救助活動の合間、溜まった多種多様な作業を片付けていきます。まずは熊の食べ物となる木の実等の調査活動。地図に示されている調査用に特定された木を探し、双眼鏡を使い1本の木になっている栗やどんぐりを6人で同時に数え記録していきます。1か所につき10本ほどの木、それを数か所行うため時間がかかる作業です。また、道具類の調整や準備、清掃等、やることはいくらでもあります。そして熊との遭遇を未然に防ぐために最も大切な仕事は地域の人々の理解と教育です。町内全ての小学校を訪問し熊に関する正しい知識を子供たちに知ってもらうことにより、彼らの親への教育へとつなげていく。メディア機関へのPR活動も重要な活動です。こうしたピッキオの日々の努力と活動により軽井沢での熊捕殺数は1年に( クイズ ② )頭となっているのです(解答:記事の最後を参照)。


日本では年間多くの熊を捕殺していますが、私達は熊を本当に知っているのでしょうか。テディベアに代表される人工的な可愛い熊のイメージとは対照的に自然の熊のイメージは人間を襲う大きくて恐ろしい動物というのが一般的です。しかしこのような自然の熊に対するイメージはどこに起因しているのでしょうか。ピッキオのスタッフによると個体差はあってもツキノワグマは非常に恥ずかしがりやで怖がりの性質を持つ動物だそうです。また人より数倍も大きいイメージですが、実際には体高60センチ、体重40~120キロ程です。といって人間にとって危険でないわけではありません。臆病な熊が驚いた時、人間を襲うこともあるでしょう。しかしバッファゾーンである里山を生活のスタイルの変化から手放し、熊たちの生息適地とした一方、彼らが棲む奥山を人工造林化で棲み難くしたのも人間です。怖いものは排除する。それが地球を他の生き物と共有すべき人間の在り方ではあって良いのでしょうか。私達が次世代に残すものは可愛い熊のぬいぐるみなのか、豊かな自然に生きる熊なのか決断が迫られています。


解答①:556頭(2020年度8月まで154頭)
解答②:0~1頭

 
 ピッキオの熊チームとベアドッグ

 受信機で熊の位置確認

 地図に個々の熊の位置を記入


  木の実調査



新潟動物ネットワーク/イベント班・猫班
梶浦 麻子
令和2年12月1日掲載


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