猫に躾けられる?
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十数年前、関東で一人暮らしをしていた時の事です。私にとって初めての猫がやってきました。
友人が保護した生後半年程のキジトラ柄の雄猫で、とても人懐こく頭の良い子でした。
幼い頃から喘息と重度のアトピー性皮膚炎があった為、母は私が動物と接する事を良く思わず、猫を飼う事を許してくれませんでした。その為、一人暮らしをしたら猫を飼うと心に決めていたのです。
猫を飼うという事は長年の私の夢でもありましたが、正直不安もありました。
自分がきちんと猫のお世話ができるのか、猫アレルギーが出てアトピーが悪化しないか、喘息が再発したりしないか。とても悩みましたが猫が大好き! 猫を飼いたいという気持ちが勝ってしまったのです。今、考えるとなかなか無謀な決断だったなと重います。
猫と一緒に生活するため、私はペット可の物件に引っ越しをしました。その際に重視したのはフローリングであるという事、私が留守にしている間に猫がキッチンやお風呂などに自由に行き来できないよう仕切れる扉がある事、猫が十分に日向ぼっこできる日当たりの良い物件という事でした。
友人には2週間のお試し期間を設けてもらったのですが、幸いにもアレルギー症状は出ず、この子を家の子として迎え入れる事ができました。
私はこの子に、ちぃたんと名前をつけました。
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友人が保護した際に最初にメールで送ってくれたもの。
この写真が、この子と一緒に暮らしたいと私に決断させました。 |
ちぃたんは保護された後、去勢手術をする際に猫白血病ウイルス(FeLV)陽性であるという事と下部尿路疾患が判明していた為、定期的な通院と投薬が必要でした。
毎日、薬(抗生物質)を飲ませるのは猫の扱い方がまだよくわからない私にとって、かなりハードルの高い事でした。猫の口を開け、喉の中央、奥をめがけ薬を放り込む。それだけの事なのですが、なかなか難しくコツがいります。しかも抗生物質は苦いので猫が自然と薬を飲み込める位置に入れられないと吐き出してしまい、一度失敗すると次からまた薬を飲ませるのが大変になります。そんな私を見かねて、かかりつけの獣医さんがとても親身になって下さり、「もし飲ませられなかったら毎日連れてきてもいいよ」と言ってくださいました。
どうしても飲ませられなくて何度か先生に飲ませてもらいに通った事もありましたが、試行錯誤を重ねながら、なんとか自分で薬を飲ませられるようになりました。
大変な事も沢山ありましたが、ちぃたんとの日々は毎日楽しく、とても幸せでした。
仕事から帰宅する際は、家でちぃたんが待っていると思うと足取りも軽く、毎日家に帰るのが楽しみで仕方なかったのです。
帰宅し部屋のドアを開けると彼は必ず、これ見よがしにごろんとお腹を見せて、私に「なでて」と要求をしてきます。私は言われるがままなで回し、満足すると次は窓まで私を誘導、鳴いて窓を開ける事を要求、次は抱っこをねだります。それも気が済むと次はゴハンの要求です。「仕方ないなぁ」なんて言いながらも私は毎日、猫の思うままに誘導されていた訳です。
私にとって、ちぃたんは可愛い可愛い特別な猫でしたが、残念ながら猫白血病ウイルスには勝てず、2才を迎えたころ腎リンパ腫を発症し天国に旅立ってしまいました。
現在は、その後に我が家に迎えた茶白猫柄の猫、せりくんと人間の家族と一緒に暮らしています。
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せり |
そんな、せりくんも今年12才を迎えました。今は腎臓の数値が若干高い為、1日2回お薬を毎日飲ませています。
せりくんはちぃたんとは全く違う性格の猫ですが、ちぃたんが私に沢山の事を教えてくれたので、せりくんと暮らしもあまり苦労した記憶はありません。
そう、ちぃたんは私にとって偉大なるにゃんこ先生だったのです。
最近、ちぃたんを友人から譲り受ける際、彼女から言われた言葉を思い出します。
「犬は人間が躾けるけれど、猫は人間が躾けられるんだよ。」
最初、言われた時は全くピンときませんでした。犬と違って猫は躾けをするのは難しいという事は理解していましたが、人間が猫に躾けられる?という言葉の意味が理解できなかったのです。
しかし、今では彼女の言葉もまんざら嘘ではないなと実感しています。
猫の爪切り、ブラッシング、シャンプー、薬の飲ませ方、目薬のさし方、猫の病気についての知識、ペットフードの選び方など沢山の事を、私は短期間のうちにマスターさせられました。
そして苦手だったはずの掃除も、猫と生活するため毎日必死で掃除機をかけるようになりました。
どうしたら猫と自分が快適で楽しく過ごせるようになるのか、私は自分でも気づかないうちに考え、行動できるようなっていたのです。
猫との暮らしにおいて大切なのは猫という生き物の行動や習性を知り、それを受け入れるという事。猫の行動を先回りして考え、猫にとって危険なものや人間が壊されたくないような大切なものは全部、扉のある棚などに仕舞っておく等の対策をとる事。猫が安心できる場所を作ってあげる事。そして、猫の気持ちに寄り添うという事ではないかなと思います。
猫は犬と違ってストレートに要求をしない事もありますが、猫は必ず人間に対して何かしらの形でサインを出してくれています。それを見逃さないようにすれば、粗相をしたり、人間に対して危害を加えたりはしません。
事実、ちぃたんとの生活は短かったですが一度も粗相をされたり噛まれたり、引っ掻かれたりした事はありませんでした。壁などでの爪とぎも一切しない子でしたので、賃貸物件を引き払う際、部屋の状態があまりに良かった為、修繕が必要な箇所がなく、大家さんに「本当に猫いました?」なんて言われたくらいでした。
猫ですから、ちょっとしたいたずら等はありますが、それもまた家族の笑いのネタになり私たちを和ませてくれています。
そんな猫との生活を皆さんも楽しんでみませんか?
もしかしたら、猫と暮らすという事は自分が変われる良いチャンスかもしれません。
新潟動物ネットワークでは絶讃、猫ちゃんの里親募集中です。
少しでも多くの人々に猫との生活の楽しさを知って頂ければと思っております。
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ちいたん |
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新潟動物ネットワーク/猫班・総務
本間 恵美
令和元年8月1日掲載 |