吉川真嗣・美貴の二人旅  No.6

   長井の山一醤油を訪ねて

               山形県長井市




 2度,3度訪ねる度に変化が見られることも、旅の楽しみの一つである。それがその町の特徴をより引き立てるものになっていれば、なおのことである。何度か同じ場所を訪れると、町というのは生き物であり、その活力の源である。そこに住まう人々の町への思い入れや意識的な町づくりの方向性が如実に現れることを実感させる。

 長井は3度訪れたが、その一年半の間に、少しずつ古い商家が再生され、歴史的な背景を意識的に取り組んだ個店展開が、ゆるやかに進んでいる。全体的な町並みの景観形成にまで及ばずとも、歩いてみるとパラパラと足を止めたくなる店が何軒か出てくる。

 先日はそのうち一軒、創業寛政元年の山一醤油屋さんに立ち寄った。広い間口から奥まで土間がが通り、中の薄暗さでずっと奥が見通しがきかず、好奇心がかきたてられる。奥まで「こんにちわ」と声をかけながら恐る恐る入っていくと、若ご主人が出て来られた。厚かましく醤油の製造の工場を拝見させてもらいながら、親切丁寧な解説まで受ける。
工場の中は往時をしのばせる年代物のつくりそのままで、工場と家の間に奉公人用の大きないろりがあり、その日もパチパチと火がおこされていた。作られているお醤油の品質へのこだわりは勿論だが、1つ面白いものを見つけた。
おそらく山一屋だけが受け継いでいる食材であろうという、「あけがらし」である。白味噌のような色をして麺風の粒々がビンに入って売られている。2百余年伝承された技法で仕込んだ秘伝のものらしい。そして若ご主人曰く、「当家では代々、結婚式当日必ず花婿に食べさせたもの」だとか。
話のネタに1つ買って帰って食べてみると、なんとこれがまた、炊き立てのご飯によくあって、食の進むこと進むこと。風呂吹き大根の練り味噌代わりや山ウド等の季節野菜とも相性が良さそうだ。

 ともあれ、珍しい土地の味覚と出会い、建物や風景だけではない、その土地固有の文化に一つ触れられたことに満足する。

 次回はまた一軒一軒古いお店を回って、長井固有の文化を探してみたい。

 
 
    




文・写真
      吉川 真嗣・美貴

   


山一醤油屋


おすすめ食事処
会津名産
 本ぼうだら煮
 にしん山椒漬

 
福島県会津若松市相生町
 Tel 0242-22-2274



奥の深い通り土間

 

製造所内




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