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ふるさと・村上を語る時、三面川をぬきにしては語れない。三面川は、村上が世界に先駆けて「鮭」の孵化事業を行った「母なる川」である。江戸時代から村上藩は、産卵のために遡上する鮭を人口の川(種川)を造って誘い入れ、自然増殖と稚魚の保護育成に努めてきた。この事業は、現在も、国の保護のもと一括採捕による人口孵化事業として続いている。 作家・大庭みな子さんは、小説「三面川」(注1)の中で、三面川の魅力やそこに暮らす人々の人情の世界を美しく描いている。また、写真家・横川健さんは、写真集「村上の四季」(注2)の中で、四季折々に趣を変える三面川の表情を写真と文で紹介している。彼は、1年半近く村上に住み込んでその撮影にあたったと言う。少し大げさな言い方かもしれないが、村上は、人類が生存する上で必要にして十分な自然条件を備えた理想の大地だと思う。それは、雑誌「東洋経済」の「住みよい都市ランキング」で全国46位に位置している事からもうなずけよう。 毎年10月末頃から、三面川は活気に溢れる。遡上する鮭の「居繰り網漁」や「塩引き鮭」の作り方、数々の鮭料理がテレビを通して全国に紹介される。50種をこえる鮭料理の中には、「川煮」や「酒びたし」のように、村上でしか食べられないものも数多い。季節感の薄い都会で暮らしていると、「鮭」と聞くだけで、たまらなく村上が恋しくなる。七、八年前になるだろうか?そんな思いを詩に書いた。友人が曲をつけ、出来上がったのが「三面川慕情」(注3)である。歌詞の一番を紹介しよう。 長い旅路の 鮭の群れ 三面川に 遡(かえ)る日を 君は何処で 思うやら ワルツの曲調の歌だが、ふるさと・村上の皆さんに喜んで頂いているようだ。 今では、村上も私の住む東京からは日帰り圏になった。現在、県外で暮らす「鮭っ子」(村上人)は、村上市の人口の10数倍にのぼるであろう。そうした「鮭っ子」が共通の思いを抱く場所が、三面川ではないか。「母なる川・三面川」は、我ら「県外在住の鮭っ子」の望郷の共有遺産なのだ。村上には、山の幸あり、海の幸あり、川の幸あり、温泉あり、そして人情豊な城下町の伝統文化がある。その文化を育む四季折々の自然の美しさはまた格別である。いくら都市化が進み、生活様式が変わっても村上は村上のままであって欲しい。私は、村上に生まれたことを誇りに、その素晴らしさを子々孫々に語り継いでゆきたい。
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