城下町村上の旧町人町における歴史的建造物の現存状況 卒業論文

新潟大学工学部建築学科建築学コース
 卒業論文概要   平成13年度

    T98K685E  佐藤 憲明
    指導教官   岡崎篤行助教授


城下町村上の旧町人町のおける歴史的建造物群の現存状況


1.研究の背景と目的  
 村上市は新潟県の北部に位置し、中心部は16世紀初期に城下町として形成され始めた。国指定重要文化財若林住宅の保存修理工事を契機に歴史的遺産を守ろうとする動きが出てきた。1990年には旧武家町の一部(図1)に伝統的建造物群保存対策調査が実施され、2001年から同地区は『村上歴史的景観保全条例』によって景観形成地区となった。

旧町人町も最近『町屋の人形さま巡り(1)』、『町屋の屏風まつり』が行われ、町家の保存と活用の動きが始まった。この催しは地域活性化への糸口となっている。しかし、この地区の主要な通り全てに都市計画道路が指定され道路の拡幅が予定されているため歴史的建造物(写真)の保存が危ぶまれている。又数件の町家の内部調査はされているが、歴史的建造物の悉皆調査が行われていないため、その現存状況は把握できていない。

 本研究は、@旧町人町における歴史的建造物の現存状況 A歴史的建造物のファサードの形態を外観調査により把握し、歴史的建造物を活用したまちづくりをしていくための基礎データを取ることが目的である。  


写真1 上町の歴史的建造物 写真2 小町の歴史的建造物
1,2階正面窓の両方に格子がついている歴史的建造物は4戸だけだった。特に写真1は間口が広く、格子がついて同規模の歴史的建造物は他に1戸しかない。しかし上町の一部に道路拡幅工事が始まり、消滅の危機に瀕している。



2.研究方法
(1)旧町人町を調査範囲1 羽黒町、泉町を除くとし、外観による建造物の悉皆調査を行う(調査項目:用途、外壁材料、屋根形状、葺き材料、構造、階数、屋根面、玄関位置、セットバック有無、格子の有無、歴史的建造物の判定)

(2)中央商店街(大町、小町、上町)における歴史的建造物のファサードの形態を対象とし、外観による調査を行う(調査項目:出入り口、1階、2階の正面窓、シャッターの有無,)。
調査地区の決定理由は、
@一部拡幅工事が始まり早急な調査が必要。

A歴史が一番古く、旧町人町の核となる地区であるため、優先的に調査する。


3.旧町人町における建造物の実態
 住宅地図から抽出した敷地割1905に対し、確認できた建造物1729戸を調査した。
     (調査日2001年9月〜12月)

(1)歴史的建造物の残存状況 ・・・歴史的建造物の判別は外壁材料や軒の木材等傍観できる範囲で行った。結果、歴史的建造物468戸を確認し、残存率は27.1%であった。残存率が一番高いのは大工町、残存数が一番多いのは庄内町である。(図2)また中央商店街の大町、小町も他と比べて残存率が高い。拡幅した長井町、片町、上片町に歴史的建造物はほとんど残っていない。
(2)歴史的建造物の特徴・・・構造は99.8%が木造であり、RCは1戸だけ確認した。また2階建て、切妻、平入りが多く、この3つの特徴を持つ歴史的建造物は81.0%を占める。用途については、45.7%が住宅、商店は22.9%確認した。空家は13.9%あった。格子は7.1%しかなくほとんど残っていない。(図3)。
(3)セットバックの状況・・・駐車スペースをとるために通りから1.5m以上下がった建造物はセットバックとした。旧町人町全体でセットバックしてしまった建造物が28.1%あった。塩町が一番セットバックしている割合が高い。また道路拡幅した長井町、片町も割合が高い。一方、中央商店街の大町、小町はセットバックしている建造物が少なかった。


4.中央商店街における歴史的建造物のファサードの形態
 中央商店街の通りに面した歴史的建造物(54戸)を対象として調査した。     
    (図4 調査日2001年12月
(1)出入り口・・・アルミ製サッシ戸が70.4%、シャッターは16.7%が使用されていた。
(2)シャッター・・・55.6%がシャッターを使用している。
(3)正面の窓のサッシ・・・1階正面窓はアルミ製サッシが40.7%、格子が5.6%あった。2階正面窓はアルミ製サッシが54.7%、木製サッシが24.5%、格子は7.5%とあった。1階正面窓と比べると木製サッシが多く使用されている。


5.まとめ
(1)歴史的建造物は27.1%現存しており、その特徴は木造2階建て、切妻平入りが圧倒的に多いとわかった。また旧町人町の核である中央商店街は、歴史的建造物の残存率が高く、まちづくりをしていく上で重要な地区であることがわかった。すでに中心部の周囲には道路が整備されているので、道路の拡幅をやめ歴史的建造物を活かしたまちづくりを行うべきと考える。
(2)セットバックしている建造物は、駐車スペース確保のために増加の傾向があり,今後町並みを整えていく上で対策を考えていく必要がある。     
3)中央商店街における歴史的建造物のファサードの形態は、アルミサッシやシャッターなど歴史的景観を阻害する要素が多く見られたが、格子も現存しており、これから村上の伝統的な格子や景観に調和したサッシを用いることで景観を改善していくことは可能である考えられる。


註釈】
(1) 町家の中にお雛様などを飾り、見物客は中に入って、町家の作りと雛人形の両方が見ることができる催し物。屏風まつりも同様の手法。
(2) 作図にあたって元図は村上市地図(調整兜x士波出版)を使用。旧町人町・旧武家町範囲については 内藤候治城明治維新城下時代村上地図(村上市)、村上町全図(郷土村上1981第42号)、景観形成地区については歴史的景観保全ガイドライン(村上市)をそれぞれ参考にした。



図2 歴史的建造物の残存状況とセットバック

図3 歴史的建造物の特徴

図4 中央商店街における歴史的建造物のファサードの形態


図1 調査範囲図と歴史的建造物群の分布図(2)  
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この卒業論文は、本文80ページ付録73ページ合計153ページから構成されています。今回は、その中の梗概です。 
新潟大学の佐藤憲明氏と岡崎助教授のご好意によって掲載させていただきます。この論文が新しい村上づくりに役立つことを期待します。
                             
          編集長記
著者履歴
1978年5月3日生まれ
岩船郡神林村松沢出身
平林小学校卒平林中学校卒村上高校卒・新潟大学入学
現在 工学部建設学科建築学コース
都市計画研究室(岡崎研究室)


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