2016年12月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.186



鮭鮏往還  その三



横田 謙輔
(よこた けんすけ)
1938年 町立岩船尋常高等
           小学校入学
雅号:素山
東京・村上市郷友会筆頭相談役
東京都小平市在住





筆 者






2010.12.11「三面川の鮭を食べる会」
で挨拶する筆者






2012.12.8「三面川の鮭を食べる会」
ふるさと村上を想い歌う






2012.12.8「三面川の鮭を食べる会」
前列左端 筆者
 私は生まれも育ちも岩船である。岩船は城下町村上の南西にある漁港で商港でもある。
 「輪っぱ煮」で知られた粟島と結ぶ定期船がある。磯の香の漂う街である。祖母の妹の家は大諜網の網元で、祖父の家は仕出し屋で県立村上中学校の第一回生の小田龍太名誉教授は従弟にあたる。当季は繁忙を極めた覚えがあるが、今はない。
 鮭は「サケ目・サケ科・サケ属」の魚である。鮭の字義は「ふぐ」で、海魚の一種で美味であるが内臓に猛毒があるとある。国字では「鮭」(さけ)とある。また、解字は「魚」と「圭」で、初めて「鮭」であることが分かる。「村上商工会議所ニュース」の2014年11月5日号にイヨボヤ会館の塩引き鮭の作り方実演の広告があり、11月11日を以て「鮭の日」と命名している。私の生月日は11月11日なので「鮭の日」の生れとは言い得て妙である。
 享保年間(1716~1736)、三面川の鮭は藩の徴税による収入として重要で、幕府貴賓への贈物としても珍重された。所が、其の後は不漁続きで止むに至ったと云う。安永の頃(1772~1781)、鮭の遡上を阻み、産卵に適した川を開削し、資源保護を計った。「種川の制」(1750)である。世界的先駆者青砥綱義武平次(1713~1788)の功なくしては語れない。今ならば「名誉市民」である。
 子供の頃、漁業組合の競りに行って鮭を引き当てた事がある。背負って、大きさと重さを実感した。魚体は大きく銀鱗で被われ、身は張っている。顔は皆同じ様だが威容がある。「鼻曲り」はおっかなかったものだ。
 鮭は生まれた川に帰る。母川回帰である。秋に海から川に遡り、川床を探り、鰭で凹地を成し上げ、雌は産卵し、雄は精水を掛けて行く。卵は八週間後に孵化し、体にぶら下がった卵黄から栄養素をとり稚魚に育つ。稚魚は程なく海浜に達し、海水魚となる。親は稚魚の成育を待たずに生涯を終える。魚はオホーツク・ベーリング海を回遊し、母川へ回帰する。鮭は色や形が鮮やかで、その上食べておいしい。投げる所がない。
 塩引鮭は秋鮭の鰓を取り腹を開け、口腔や腹腔に塩をして一週間程待つ。塩を洗い落とし、皮を磨き上げ、割箸を挿して腹を拡げ、寒風に曝して作る。甘塩を新巻という。これを焼いて食うのが美味しい。切り身はゆり根の様に鱗茎状にほぐれる。
 塩引鮭を一本のまんま六ケ月以上も風乾すると魚体はやせて、くすみ、煤けた色に変わる。薄切りにして日本酒を振り掛けて食する。「鮭の酒びたし」は村上の特産である。
 次は「氷頭なます」。1603年徳川幕府開府の年に日本イエズス会が刊行した日本ポルトガル語の辞書に「鮭のヒヅナマス」と在る。鮭の頭部の軟骨部分を薄く切り、よく水洗いし、大根おろしと柚で和え、赤い腹子をのせる。妙味である。生家では鰓を干して焙り、揉んで大根おろしの酢の物した覚えがある。
 次は「はらこ」だ。「イクラ」は一般的な言い方だが、本来ロシア語で卵粒の塩漬けにしたものをいう。生家では「はらら」といっていた。鮭の卵は袋状の膜で包まれていて、対になって腹に納まっている。ひと腹を取り出し、周りの粘膜を取り、ぬめりを取り、何度も水洗いしバラコにする。この魚卵は醤油・味醂・清酒の任意一定の混和液で味付けされ、御飯や鮨飯に載せたり、吸物にして食べる。蝶鮫の子キャビアも味・量に於いて勝るものではない。
 鮭の身は美しい朱色に呈色する。古代中国は内陸で、この魚を知らないから、この朱色は知るべくもなかった。私共はその色・香・味をなつかしみ、食べる。鮭には味噌漬、焼漬・甘露煮・粕漬、西京漬それに飯鮨がある。ことの序に落とせないのが大魚キングサーモンと格別の風味スモークサーモンが在る。

 鮭料理は百態百珍があるが、限りがある訳ではなかろう。
 今、憶うのは母川に回帰しない息を待つ悲母の思いである。

 皆様、よいお歳を

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リレー随筆「鮭っ子物語」は、村上市・岩船郡にゆかりのある方々にリレー式に随筆を書いていただき、ふるさと村上・岩船の発展に資する協力者の輪を広げていくことを目的としています。 (編集部)
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