2007年4月号 | ||||||
リレー随筆 「鮭っ子物語」 No.70 |
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ふるさと味の歳時記 |
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正月元旦の早朝は、焼き餅の香ばしい匂いで目が覚めた。我が家のお雑煮は、焼き餅の上に芹、さらにその上には、“はらこ”をのせる。はらこの半分以上は食べている内に、お椀の下へ沈んでしまう。最後は少し白っぽくなったはらこを食べるのが、風味が変わってまた異なった味わいだ。雪のない冬は、芹摘みに、湧水池から渾渾と湧き出ている清水川のほとりへ母について行った。小学4年生頃だったろうか、大圃場整備の計画で清水川は埋められてしまう。どんなに大雨が降っても澄み切った水が流れ、鮮やかな黄緑色の水草がゆらゆらとなびき、梅花藻の白い花が光り、水面に輝いていた日が想い出される。 箸休めに、大晦日の夜と元日は、氷頭なますだ。氷頭を薄切りにして、大根おろし、みかん、ゆずの果汁と酢、少量の砂糖とみりん、おろし生姜、上には、はらことゆず皮の千切りをのせた。一年に大晦日と正月元旦だけの料理、さっぱりしていて、体の心からリフレッシュできる酵素のみなぎった絶品だ。 雪がまだ残っている早春、ふきのとうの天ぷら、ふきのとうをすり潰してみそに和えるとふきみそのできあがり、風呂吹き大根につけて早春の香りを味わう。まもなくわらびやこごみ、うるいのおひたし、ぜんまいは煮物にする。筍の孟宗竹は煮物に、真竹はみそ汁にしていた。庭や畑に筍がいくらでも生えてくるので、夕食前に取って来てくれとよく頼まれた。春一番の釣りはイトヨだ。湧水の流れる川に登ってきて、巣を作って産卵する変わった魚だ。鮎やかじかに負けず劣らずうまい。 5月端午の節句には三角形のちまきや笹団子、小学生の頃は母と一緒に作った。蓬は周囲の野山で新芽を摘み、団子にあんこを入れて笹を巻き、い草のひもで縛る。倒れるまで毎年作って送ってくれた。 夏はやはり鮎だ。父が鮎の内臓を塩辛に作ってくれた。鰹の腸で作る酒盗ほどではないが似た匂いで臭い。石についた珪藻を食べているためか、少し緑色で上品な苦みがある。鮎はゴロカケ、かじかはかぶせ網で取る。父はかじか捕りの名人だった。 夏祭りなのに焼き鮭の醤油びたし、秋祭りと2月の旧正月は赤飯、春のお彼岸、秋のお彼岸は必ず牡丹餅。 秋、中秋の名月、すすきの穂を花瓶にさして、月明かりのあたる所に置いて、梨、栗、白玉粉で月見団子を作って供えた。 冬、クリスマスには、定番の鳥の足。一年の終わり大晦日も、やはり焼き鮭、はらこはぬるめの湯に塩を入れ、その中でほぐす、なかなかほぐれない。父がよく醤油はらこにして送ってくれた。とにかく一年中、なにか祝い事があると、鮭と赤飯。そのせいか今でも鮭はよく食べる。村上の鮭ではないけれど、食べる度にふるさとが甦ってくる。越後村上地方は、実に古来より食に恵まれた、人間の住みやすい、食と味の、まほろばだったと思う。郷土料理でふるさとを盛り上げていけるはず、食と味のまほろば越後村上地方の味は、今も我が家の味となっている。鮭の醤油びたし、醤油はらこは子供に教えた。今度は、上級料理、氷頭なますでも教えてみよう。 |
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