2006年2月号 | |||||||
リレー随筆 「鮭っ子物語」 No.57 |
|||||||
雛 の 絵 | |||||||
我が家の住宅事情により娘には雛人形を買わずに絵描きさんに描いてもらった雛の絵が一枚あるのみであった。 孫の初節句を控え、是非、お雛様を買ってあげようと心勇む思いで息子に相談したら、なんと「いらないよ。そのかわりお雛様の絵をかいてよ。」と云われたことから始まった。 買えば簡単にすむことなのに、描くとなったら先ず、モデルがなければ描けず、それからはデパートの雛人形売場を幾ヵ所もみてまわり、でもピントくる人形が無かった。 二月の初め、東京近郊にある人形美術館を訪ねた。幸い館長さんのご好意で寒いからと自らストーブを持ってくださったり、ありがたく色々スケッチをすることが出来た。 古すぎて修復も出来ずに色褪せ衣のつまの綿が吹き出ていたり、時代順にいろいろお雛様がケースの中で寒そうに並んでいた。 その後都内の区による雛人形展や美術館のもの、上野の博物館のものなど見てまわり、ようやく絵を描く心準備が出来た。描きながらやさしい女の子に育つようにとチョット、雛の表情に笑みをつけたりして二月の下旬にやっと間にあった。 さてその後、村上市でも「町屋の人形さま巡り」が始まり早速見に行った。何と私が描きたいと思っていた享保雛や古今雛などの立派なお人形様がおしゃぎり会館や、一般の商店の茶の間などに色も美しく並んでいるのにはびっくり。それから病み付きとなり雛人形を見るためにさくらんぼの町や蔵の町、そしてこれを見なくては話にならないと天下の徳川家の雛人形等々をみてまわった。 ふるさと村上の町屋の人形さま巡りの雛達は美術館等のようにケースの中のガラス越しではなく、直に見れること。これは凄いことだと思った。それが公ではなく個人々々が所蔵していること。それだけにご苦労もあるでしょう。博物館等の美術品の保存方法などは知らないが、先祖よりの宝物を飾る時はもとより仕舞う時の細心の注意が次代へと引き継がれ残してゆく為の大切な作業の一つだと思った。 戦後すゝんだ都市化の為の区画整理にもあわず、昔ながらの趣のある町並みでの雛飾りはそうそう他所には見当らない。 いろいろ雛を見てまわっていると表情からその境遇までわかるような衣服の汚れ、哀れな淋しさを感じる古雛などがあった。 その点、村上のお雛様達は時代の戦禍にも遭わず長年大切にとり扱われてきたことを物語るように品位があり、古くても実に美しい。 村上を出て都会で働き、世界を少しみて、そして雛の絵を描くことに始まった、他所との雛を見比べながらも結局、心はふるさと回帰であった。 古雛や町屋に残るつるべ井戸 |
|
||||||
|
|
||||||
|