吉川真嗣・美貴の二人旅 No.33 小さな旅 〜兵庫県 有馬温泉(ありまおんせん)〜 その昔、私も「温泉」というと主に中高年が行く所、と決めてかかっていた時期がある。しかし時代の加速度を増す変化の中、ここ10年は特に温泉街のイメージは良きにつけ悪しきにつけ大きく変わり、温泉全体が独自の特徴をはっきり打ち出し、見事な変身を遂げたところも多い。 今月はそんな「変身」を遂げつつある有馬温泉のご紹介である。 兵庫県の六甲山の裏側、異人館のある北野町や新幹線の新神戸駅のちょうど山をはさんで反対側に位置する、有馬である。日本最古の温泉とも言われ、また度々湯治に訪れたことで秀吉にゆかりの深い場所でもある。 8年前に訪れた時も楽しいお店がパラパラ目について、散策するのにおしゃれな温泉街だと感じ、印象には残っていた。ところがこの度久方ぶりに訪れてみるとどうだろう。その8年前の印象とはまるで街全体が変わったようであった。「有馬に仕掛け人有り」、噂には聞いていたがなるほど・・・・。 結構勾配、傾斜のある街は、夏休みということもあって親子連れの観光客の姿で賑わっていたが、その散策の人々を縫って、黒塗りのロンドンタクシーがお客の送迎に走り、坂の両脇には往時をしのばせる昔ながらの木造建築旅館があるかと思えば、露天の足湯のスポットや近代建築が並ぶ。蔵を生かしたギャラリーで新進のアーティストの作品を紹介していたり、おしゃれなティールームもできている。有馬の中心部は大きくなく、こじんまりとまとまっていて、そこから放射状に山の中腹に大型旅館がそれぞれ隠れ家的に点在している、というのが私の印象であるが、その一つ一つがどことなく洗練されていて、最盛期の半分近く落ち込む辛酸を一時なめ、かの阪神大震災の被害にあった地とはとても思えない。 ここ有馬では「仕掛け人」のお一人、金井氏が経営する「御所坊」に宿をとった。同氏率いる「花小宿」で昼食を頂き、お宿の中を探索開始。木造建築の温かみと格調を一段と高めるオレンジ色の薄暗い照明に浮かび上がる空間は、統一された美学に貫かれ、とても美しい。宿泊料金の受領書を入れる封筒一つに至るまで、「主人」のこだわりがあるとの定評どおり、センスがそこここに香る。チェックイン時、お香の漂う玄関口から、係りのみなさんの素敵な笑顔に迎えられ、細やかに行き届いた美味なお料理をいただき、洞窟に入っていくような雰囲気の陶土の湯につかれる「御所坊」はおすすめのおすすめである。 ところでこの金井氏、前述の蔵のギャラリーやティールーム、また大人も楽しめる有馬玩具博物館等のプロデュースで「散策して楽しい有馬」を盛り上げるのみならず、廃油を使ったディーゼル車の運行や温泉宿の生ゴミの肥料化とそれでできる野菜の契約栽培化等、見事な総合的取り組みをしておられる。これらの一連のことには、私たち皆が学ぶべき、無駄をせずすべてを活かす循環型の考え方と実践がある。 何はともあれ、この地の歴史を感じるお寺や神社を経巡りながら、お食事に、お土産探しに、お湯にと、新しいものと古いものを同時に味わえる盛りだくさんの有馬である。 そうそう、ここの特産の「炭酸せんべい」は是非にご賞味あれ! |
|
||||||||||
|