吉川真嗣・美貴の二人旅  No.31

 小さな旅 
  〜愛知県東加茂郡足助(あすけ)町〜

 そこここで木々が芽吹き、小さな花を咲かせはじめている昨今。新緑と花の季節の到来に、心躍る思いである。
4月、5月に出かけて美しかった思い出の地と言えばいくつかあるが、そのうちつとにその美が際立って感じられた、今月は愛知県足助町の話題である。



三州足助屋敷
(あすけパンフレットより)


 飯盛山を借景に、足助川が細長くのびる町なかに縫うように流れ、その両脇にたたずむ塗りごめの家並みや黒い板壁。散策するとしっとりした白壁の家や昔の面影の商家が優しく私たちを出迎えてくれる。足助は古来、人馬の往来が激しく、三河湾の塩と信州方面からの山の産物を運ぶ中継宿場として栄え、信州へ運ぶ塩をここで荷直しし、中馬で運んだところから、塩の道は「中馬街道」と呼ばれたそうな。東岡崎の駅からはかなり山中に入るロケーションであるが、辿ってきた歴史を感じさせつつ、美しい自然に囲まれた感度の高い町がそこにはあった。

 この足助。見所は多く、つとに香嵐渓(こうらんけい)は全国的に有名な紅葉の名所ゆえ、秋の観光客数はおびただしく、車が渋滞で動かない程というから、私は春の足助をおすすめしたい。新緑の初々しい緑に山桜の優しいピンクが映える山並みと、香嵐渓のもみじの真新しい輝くような緑を巡ると、身も心も洗われて新しい命が吹き込まれるような感動を覚える。春の4月、5月と一口に言っても、1週1週山も川も木々もすべてが少しずつ変化するから、その美しさも折々のもののようで、足助の人たちは自分の町の日々の微妙な自然景観の変化をいとおしむように愛でているようである。小高い山の斜面には早春、カタクリが見事な紅紫色の花をいっせいに咲かせ、その植物の豊かな群生にはこの地の今も昔も変わらぬ豊穣さが漂う。
 その香嵐渓の少し先には、まさに異次元空間とも言える「三州足助屋敷」が広がる。どっしりした楓門をくぐると茅葺の母屋、土蔵、鍛冶屋や、紙漉き小屋、篭屋などがあり、そこでは全く昔ながらの手作業が見られ、牛がつながれ、鶏がそこここに駆け回り、懐かしい様々な音が聞こえてくる。のどかで素朴な山里の生活がここでは観光用施設でありながら同時に足助のほんものの生活として展開している。その光景の懐かしさ、美しさと言ったら無い。まぶしいような「いのち」の躍動がそこにはあった。
 あともう一点。見所ご紹介には尽きない足助であるが、是非足助町福祉センターである「百年草」をお訪ねになるよう、念を押しておきたい。三州足助屋敷からは一転して現代的感覚を存分に取り入れた建築の百年草である。前述の苔むす屋敷郡と横文字の似合うこの建物が、コンパクトな足助に不思議に調和して存在しているところに、この町の総合プロデューサーの感性が光っているような気がする。そして実はこの中に、地元の高齢者を雇用し、新規の地場産をおこし、町の税収にもつなげているという、ハム・ソーセージを作る「zizi(ジジ)工房」とパンを作るBABAたちの「バーバラはうす」があるのである。そのネーミングの妙と言え、発想の転換と言え、私などはあまりの斬新さにうならされた次第である。更にうなったのはそのハム、ソーセージ、パンの美味だったこと・・・。
 足助はまさに見て歩いて良し、食べて良し、そして肝心の人情味良しの3点揃いのスグレモノの町なのである。

 春のうららかな陽気の只中の足助は清楚で純な乙女にも見え、秋の狂おしいほどに赤く燃え上がる時節はその名のとおり馨しい紅葉の嵐に包まれる土地。四季折々訪れて人々の期待を裏切らない、見事な変容を見せる足助である。



  
写真・文 吉川 真嗣・美貴




山の芽吹き



足助の町並み




香 嵐 渓


おすすめ食事処
会津名産
 本ぼうだら煮
 にしん山椒漬
 
福島県会津若松市相生町
 Tel 0242-22-2274



三州足助屋敷



上菓子司 会津葵



百 年 草


足助にて筆者


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