吉川真嗣・美貴の二人旅  No.34


小さな旅  〜古民家購入決断のとき〜

 早いもので拙宅「浪漫亭(ろうまんてい)」に暮らし出して、間も無く3年である。よく人から「住み心地はいかが?」と聞かれるが、その口調は一様に「古い家のことだから、さぞかし寒くてしかも使い勝手が悪いでしょう?」と物語っているように思える。がしかし、である。これがなんと住み心地抜群なのである。

 もとはと言えばこの話、平成13年の6月、降って沸いたように転がり込んできた情報であった。「小町の第四銀行支店長社宅が密かに売りに出されているという話、知っているか?」勿論、そのような密かな話、知る由もなかったわけだが、城下町としての風情の感じられる角地に立つこの家、「古い建物ゆえ他の人の手に渡れば、間違いなく壊されて平地となり、アパートか駐車場になる。」とそのような危機感だけが頭をよぎった。「保存運動の声をあげる必要があるのではないか」などと古民家に関心の深い仲間内で話していたその時である。「吉川(きっかわ)、お前が買って住め」となんとも大胆なご発言をなさる方がいらっしゃるではないか。その声の主こそ、このホームページを主宰しておられる安沢氏であるが、このあっと驚く一言がまさかその後の私たち夫婦の運命を決定付けるものになろうとは・・・。

 昭和11年に建てられたこの家、もとは村上の大層な資産家であられた「近藤さま」のお屋敷であった。贅の限りを尽くしたことが床柱から天井板から床板まですべてにうかがえる。その昔は地元の人々に、別名「小町御殿」とも呼ばれたり、また「ケヤキ御殿」とも呼ばれていたそうな。思いをこめて建てられた割には近藤様がお住まいになられたのは十数年と短く、その後第四銀行が買い取り、支店長社宅として使われ、数年ごとに家の主が変わるという歴史がこの家に刻まれていった。

 村上の町おこしを考えながら村上中を歩き回っていた私たちは、この家のことは外から頻繁に眺め知っていたが、しかしまさか数年後自分達の住まいになるとは夢にも思っていなかった。全国、北は北海道の小樽から南は沖縄の竹富島まで260箇所を夫婦で見学して回っていた私たちは、随分数多くの歴史的な建築も見て歩いていた。一見ボロボロのように見えても、昔の建築は土台がしっかりしているからどこをどうなおせばどのようにすばらしくなる、というのが絵に描けるわけである。夫婦共に同じインプットがあるから、「小町御殿」の話が舞い込んだ時、2人ともインテリア改装後の似たようなイメージが浮かび、迷うことなく、また意見が分かれることなく、一にも二にも「買って住んで守ろう!」と相成ったわけである。ご参考までに改装前後の写真を添付させていただくが、自分達がただ住まいとするだけではここまでしなかった。現在3月の「町屋の人形さま巡り」と9月の「町屋の屏風まつり」で参加店の一つとして1階部分をその期間公開し、また時折「古民家コンサート」と称して外国の民族音楽団や女優さんの「ひとりがたり」等の開催場所にもしている。古いものを古いまま使うのではなく、古さを活かしながら風情があってしかも快適に住まうサンプルとして、もう一度建物自体を地域に還元しながら、情報発信しているのである。

 半年近くかけて土台上げに始まって、床板を張替え、建具を特注したり骨董屋を巡って家具・調度・照明器具・建具と探し回り、雪崩のように引越しをして、火事場のバカヂカラで家を整えたことが思い起こされる。
 家の購入の契約をした直後、枯れかかって精の無かったノッポの玄関前の松が、真冬にさしかかる時期であるというのに、青々と見事に息を吹き返し新緑の瑞々しさで私たちを歓迎してくれた。そして今年、8年目にして初めての女の子に恵まれた時には、やはり玄関先のヤツデが今までに無く突然勢いよく身長を伸ばし実をつけ、庭木に見たことの無い可愛い赤やピンクの花が咲き誇った。
 住まいでありながら、半分「公共的」に使っている浪漫亭ゆえ、年中お客様が絶えないがその度ごとに「あっ、この細工のこの部分、面取りしていますね。」とかお客様に教えられ家に発見のある日々でもある。いろんな分野のお客様を家に迎え入れながら語らい啓発され、古民家のおかげで暮らしそのものを堪能する毎日である。


 しばらく「小さな旅」をおやすみさせていただきます。またこのページが再開される日まで、皆様素敵な「旅」をお楽しみくださいね。 
 
  
写真・文 吉川 真嗣・美貴


浪漫亭の玄関




北側全景




東側全景


おすすめ食事処
会津名産
 本ぼうだら煮
 にしん山椒漬
 
福島県会津若松市相生町
 Tel 0242-22-2274




大正浪漫をイメージした家具や照明




上菓子司 会津葵


改築前 改築後


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