吉川真嗣・美貴の二人旅 No.29 小さな旅 〜青森県黒石〜 「異常な暖冬だ、暖冬だ。」と北の地村上でも11・12月はその暖かさが人々の口にのぼった。12月も後半にさしかかりようやく雪が散らつき寒い日も出てきたが、やはり北国の魅力はこの寒さと冬景色にこそあると毎年思う私である。 関西生まれの関西育ちの私は、村上に来て初めて厳しくはあるが、本当の冬の魅力に目覚めたと言っていい。そういう意味では今年の暖冬は、過ごす分には過ごし良かったとは言うものの、毎年の急激に冷え込んでくる中で鮭のシーズンを迎えて、なわた汁に舌鼓をうち「はららご」をピーンと張りつめた空気の中で堪能するというような、初冬の「恒例行事」の気分も盛り上がらぬままに冬の前半を取り逃した感が否めない。 ところでこの北に位置する国には冬に訪ねてこそ、郷土の風習や冬をしのぎ楽しむ生活の知恵等、一番その土地らしさに出会えるとの思いから、今月は青森県黒石のご紹介である。 黒石、ここは町並みとしては雁木(がんぎ)が特徴的な町である。数年前の大晦日、NHKテレビの「ゆく年くる年」で中継され、しんしんと夜空からボタン雪が舞い落ちる中、その降り積もった雪と家屋を隔てる1本の通路、「雁木」がつとに印象的であったが、ご記憶にある方も多いことであろう。雪の多い地域では生活の便からつくられ、今もこの雁木が見られる地域は新潟県内を見てみても、津川・栃尾・糸魚川・上越・・・と挙げれば結構ある。 実際に町中に入ってみると道をはさんで両側に続く木造の雁木の連なりは、時を経て風雪に耐えたきしみと重みがあり、独特な景観を作り出している。雁木が引き立って見えるのも、その後ろにくっついている家屋に重厚なものが点在して残っていることにもよる。造り酒屋が今でも数軒あり、真茶色に変色した大きな酒林が、かつてのこの地の隆盛を物語り威容を誇っている。 表の通りから裏の通りに回ってみると、白壁の漆喰の土蔵群が現われたり、またそこだけ空へと細く突き出した昔の火見櫓が所々に見られたりと、ポツリポツリと昔日を偲ばせるものが点在していて面白い。 雁木に話を戻すと、間違いなくこの地ならではの魅力ある景観が展開しており、黒石では、この雁木は「こみせ」と呼ばれている。ゆくゆく重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)にも指定されるとかの話も聞いたが、それもうなずける。話は飛ぶが、他の地で壊されて今はなき、昔あった雁木を再生しようとする試みで、よく失敗するのが、雁木の高さを歴史的考証に沿わず、現代の寸法とスケール感を元に再生してしまうことである。出来上がった雁木は周囲の古くから残存する建築となんとなくしっくりこず、違和感が残る。ここ黒石は家屋もこみせもそのままに現代に伝えられているという意味で貴重である。 雪の降りしきる氷点下の中、黒石を訪ね、腰の高さを越える積雪をすぐ横目に、是非こみせの中をそぞろ歩きされること、おすすめである。そして寒〜い空気に冷え切った体を宿にたどり着いて、この地独特の「じゃっぱ汁」をすすり温めながら、黒石の民話や風習の一つも宿の人から聞き、黒石色にひと時どっぷりと浸られてはいかがであろうか。 |
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