吉川真嗣・美貴の二人旅 No.26
小さな旅
〜三重県多度町の白馬伝説〜
8月に入り、日本の各地で夏祭りが盛大に賑々しく、そして華やかに繰り広げられる季節である。お祭り好きにはたまらない月であるが、つい先日三重県多度町を訪ねる機会があり、今回の「小さな旅」は毎年5月4日・5日と行われる、伝説に彩られ勇壮なことで名を馳せている、多度大社の「多度祭り 古式上げ馬神事」をお送りする。
この「上げ馬神事」、各地の行事を伝えるニュース等で皆様1度はお目にされているのではないかと思うが、簡単に説明すると、毎年氏子の中より神占いによって選ばれた少年騎手6人が武者姿にて3メートル余りの絶壁を人馬一体となって駆け上がるというもの。その絶壁は大社の鳥居をくぐって正面左手に助走区間含めた「1本の駆け上りの道」として通年見られる。そのすぐさま脇に3階構造になった桟敷席の古びた木造見物席が見られる。古来より神は馬に乗って降臨するといわれるように、神と馬との関係は深く、馬の行動を神意の現われと判断することから、この人馬の駆け上がり具合で古くから農作の時期や豊凶が占われてきたという。近年に至っては時勢を反映してか景気の好不況が占われるというから面白い。
訪れたのが7月だったため、本物のライブの上げ馬神事は見物することはできず、ただ「現場」に立ってみて想像力を逞しくするばかりであったが、しかし地元の人のこの祭りを継続させてきた陰の話には、表の祭り以上に興味をもった。というのはまずこの少年騎手であるが、神占いはその昔の話、現在は事実上氏子の中の少年自身の立候補という側面が強いらしいが、親としては名誉なことと言え同時に悩みと心配の種となるという。まず、写真でご覧頂けるとおり90度近い急勾配の崖のこと、いくら訓練を積むといっても1歩間違うと危険極まりない荒行事であることに違いはない。そしてもう一つは実は少年騎手になるのに非常にお金がかかるという事実である。当日身に着ける装束や馬具を新調する費用。そして実はここからが驚いたのだが、少年は祭りに向けて特訓の日々に入り、特に直前1週間は親元を離れ、吉凶を占う神の使い手となるために、神聖な寝食の日々に入る。そのための所帯道具の新調等により、トータル300万円!程の出費になるのだそうだ。親としては「嬉し、誇らし、でも哀し」といったところではないか。こんな見えない部分の「つとめ」とたゆまず注がれた多度の人々の力の結集により、こうして毎年毎年祭りは行われてきた。
多度に限らず、祭りをとおしてこの長い長い営みと、そこに宿る精神文化の結晶の片鱗に触れる時、つくづく思い至るのが「見る側」の責任である。主催者あっての祭りであることは勿論だが、もう半分は見る側見学する側がその祭りを守り育む、という意味である。祭りに継承される土地独特の精神に思いを致すまではいかずとも、カメラのシャッターや押すな押すなの行事そのものに妨げとなるような行為が氾濫すると、祭りそのものに規制や変更を余技なくされるような事態も起こりかねない。土地固有の文化が時代の潮流に押し流されて急速に失われつつある今、その代表格である祭りは大切に受け継いでいきたいものである。そのための見物客に求められる祭りに臨む姿勢を、今こそ思いおこしたいものである。
5月4日・5日の人が溢れかえり、活気漲る多度祭りに居合わせられれば、生涯の語り草としてその経験は最高にすばらしいに違いないが、平素の静かな境内に「1500年前から棲むといわれる、人々の願いを神に届ける使者の役割を果たす白馬」に会いに行くのもオツなものである。
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「上げ馬神事」が行われる多度大社
この急な坂を馬で駆け上がる |
多度祭り(パンフより) |
多度町の町並み |
おすすめ食事処
会津名産
本ぼうだら煮
にしん山椒漬
福島県会津若松市相生町
Tel 0242-22-2274 |
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人気者の神馬と共に筆者 |
上菓子司 会津葵 |
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