吉川真嗣・美貴の二人旅 No.25 小さな旅 〜山形県 立石寺(りっしゃくじ) 通称「山寺」 「閑さや(しずかさや)岩にしみ入(いる)蝉の声」 あまりに有名な芭蕉の俳句である。しかし一方、さてこれがどこで詠まれたものかときかれれば、俄然答えられる人は少なくなるであろう。答えはこのたびの山形県「山寺」である。 ここは俗に紀州の高野山と比して「奥の高野」と呼ばれていた所でもある。両方訪れてみて私が全体の空気に共通して感じたものは、山の木々から発せられて寺の境内で更に荘厳に吹き清められて漂うひんやりとした冷気である。この冷気を身に浴び、体の芯にエネルギーが回復してくると、人が山上のまたは山奥のお堂を目指すのが何となく分かるような気がする。 さて、この山寺であるが、冒頭の芭蕉の句とともに、もうひとつこの山寺に付いてまわるイメージが、かの有名な童謡「山寺の♪ おっしょさんが・・・♪」というやつである。イメージは勝手に空想の中で広がり、そしてダブり、交差する。童謡を口づさみながら山上のお堂をめざした、と言いたいところがどっこい、急な山道と連続して登る段に、普段運動不足の私にとっては修験者さながらの行となった。途中、山の中腹で木立の間にしつらえられた露天の茶屋で休息する。天を仰ぎ木立を通り抜ける風に涼まりながら、ここで飲むラムネの清涼感はひときわであった。 登りつめて数ある堂を巡るにつけ、よくこんな高所急斜面に寺の建立をしたものだと、昔日に思いをいたし驚嘆せずにはおれない。そして同時に上へ上へと昇るのは、その行為そのものが俗世から切り離されて無心に近づく形にも似て思え、崖を巡りながら、深い緑の懐に洗われて、鳥も蝉ものすべての鳴き声が澄み渡る、こんな場を切り開いた先人に畏敬の念を抱くのであった。 ここはやはり蝉の鳴く頃訪ねてみて、芭蕉の「閑さや・・・」を体全体で味わってみたい所である。 |
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