吉川真嗣・美貴の二人旅 No.23 小さな旅 〜山形県米沢市 原始布を訪ねて〜 北国の新潟も、ようやく暖房設備が不要になる5月である。箪笥の中の衣類の整理に、季節の切り替わりを実感するこの頃でもある。ウールやカシミアの厚手のセーター類から、綿やポリエステルの薄手のブラウス類へ。衣類にも先端科学の力が大いに発揮されて様々の新種の繊維が登場している昨今である。 ところで先日、山形の米沢にある、山村商店を訪れた。ここは原始布や古代織の再現の展示をする資料館があり、期せずして私たちは古代の織り文化の水準の高さと、その気迫に満ちた美しさに出会えたのであった。 資料館の中は一歩入って、その経営者の美学が垣間見られるセンスの光る空間である。明治期頃のものと思われる、衣装箪笥や火鉢、手あぶり等が置かれていて、織りもさることながら、部屋の調度にも目を奪われる。 日本各地でその昔、その地域独特の染めや織りが発達し、地場産業として栄えた所も多かったのが、今や化繊におされ、大量生産の時代の激流に呑まれて、手織りの郷土色豊かな織りは日陰の存在となって久しい。その数少なく残されている織りの中で、現代の感覚を有する私たちが、各地を訪ねて格別心奪われるもの、強く印象に残ったものも実はそれほど多くはなかった。しかしこの米沢の山村さんの古代織は違った。その生地から発せられる迫力と厚みのある織りの見事なまでの精巧さ。古代織などと名称から想像される、それこそ原始的な粗雑さや用途の目的にかなうだけの何の装飾性も無いものとは全く異なる、「用の美」と重厚さを兼ね備えたものである。また長い年月を経た現代にも、十分に通じるある種のモダニズムさえ感じられるものであった。 この織りから発せられるオーラの正体は、草の茎から取り出された極めて華やかで細い繊維であり、人間の爪さきでよって作られたその魔法のような至難の技術力に負うものだという。 このあたりの製造工程や使われる植物の種類の説明など、懇切丁寧に家の方がご説明下さる。織りの文化の奥行きと、気の遠くなるような年月を人がその技術の向上のために試行し続けた歩みが、興味のあるなしにかかわらず、痛感させられる。 復元された生地を使って懐紙入れや袋物、名刺入れや手提げ等も販売されており、その色彩の美しさ、作品としての仕上げの丁寧さにもうならされる。資料館内部のしつらえはじめ、認識をも新たにさせられる原始布との対面やそれを現代の日用品に取り入れる際の際立ったセンス等、実にいろいろ楽しめる場なので、一度お訪ねされることをお勧めします。古代へのロマンがかきたてられる一時となることでしょう。 そうそう、そう言えば宮家の妃殿下がご訪問されたお写真もありましたっけ。ここを訪れるだけでも米沢に行く価値ありと、感嘆しきりの私なのでありました。 |
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