2021年9月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.216



(サ)チコちゃんの夏休み



 昭和30年 夏 (サ)チコちゃん 5才+1才
「あさだ~ おきろ~」と、父の声がおぼろげに聞こえてくる。
それでも布団の中でグズグズしていると、父は実力行使に出る。四方の蚊帳の吊輪を外し回るのだ。寝ている私の上にバサッっと緑色の麻の蚊帳が落ちてくる。まるで網に掛かった魚になったみたい。私はこのザラっとした感触が意外と好きで、笑いながらモゾモゾ、ジタバタ。纏わり付く蚊帳を手と足でたぐりたぐり、ようやく脱出成功。これが夏の朝の儀式のようなものだった。

 次は・・・そう、ラジオ体操。今と違って夏休み中ずっと開催されていた。朝から厳しい日差しの中、5才年上の姉と近所の友達と歩いて5、6分のところにある庄内町のグランド(現まいづる公園)に向かう。みんな起きがけのせいか、会話も弾まないまま、グランドに到着。子供達は班ごとに縦に並ぶ。一年坊主の私は列の先頭で、目の前の班長のお手本を見ながら体操をして、終わると首から下げているカードに出席の判子をもらう。これが大事、というか、このために来ているようなものだ。最終日に皆勤賞や精勤賞が貰えるからだ。帰り道、皆やっとエンジンが掛かってきて、影踏や色鬼(ごっこ)など遊びながら帰る。

 家ではご飯の炊けた匂い、味噌汁の匂いが漂っていて、食欲をくすぐる。早速、一家四人揃ってちゃぶ台を囲み、「いただきま~す」。
令和のチコちゃんは「ねえねえ、おかむらぁ・・・」と始めるが、私こと昭和の(サ)チコちゃんは「ねえねえ、おもっしぇんせ・・・」が口癖。これで始まる大して面白くもない話を、面白そうに聞いてくれる父と母と姉。得意になって『おもっしぇ話』を2、3披露して、朝ご飯が終わる。

 開けっ放しの玄関先で声がする。
 「かあちゃん、野菜いらねかねぇ?」
いつもの山辺里の農家のお婆ちゃんが、リヤカーを引いて寄ってくれる。
私は母より早く飛び出していく。お目当ては、スイカ、瓜、枝豆、トウモロコシ。母はいつも値段交渉して、まけさせる。そばで見ている私は、それがちょっと恥ずかしかった。
 しばらくするとまた声が掛かる。
「おっかさま、今日はいいカナガシラ、カレイ、アジだども、どうでしょう?」
岩船か瀬波から漁師のおばさんが自転車にトロ箱を重ねて積んで来てくれる。獲れたてピチピチの魚が入ったトロ箱をのぞくのが好きだ。買った魚はその場で手際よく下ごしらえもしてくれた。

 よく姉とした遊びは『ままごと』。庭には、ヒマワリ、百日草、ホウセンカなど色とりどりの夏の草花がたくさん咲いている。それらの花びらや葉っぱを材料に、美味しそうなご馳走や潰して搾ってカラフルな飲み物を作った。時々お客さん役をしてくれる父は、そんな娘達の様子をたくさんカメラで写してくれた。母はといえば、井戸水で冷やしたスイカや瓜を切って持ってきてくれて、『ままごと』がそのまま、『楽しいおやつの時間』となったりした。

 次は何して遊ぼうか?・・・・・子どもの一日は長―く、まだまだ続く。


 このコロナ禍で今年の夏も帰省が叶わず、それならば・・と、タイムトラベル。
66年前のふるさと村上は、時間がゆったり流れていた。物質的にはまだ豊かでない時代だったが、普通の家庭の普通の暮らしの中に、子ども達のなにげない日常に、やさしさと笑いがあふれていた。                       

ふじえだ さちこ(旧姓樋木)
村上市堀片出身
昭和42年村上高校卒
















姉とままごと
昭和の(サ)チコちゃん
元祖チコちゃんヘアーです!  
















現在の(サ)チコちゃん
ウォーキング中
 (令和3年8月記)


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