2021年7月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.214



瀬波の海岸、桑川、臥牛山


 18歳まで住んでいた実家を取り壊し、また敷地も近所の方に譲った今、村上を訪れるのは年1回だけとなってしまったが、帰るときには村上の風景はいつも変わらず私の心を迎えてくれる。
 私がまだ小さい頃、夏になると兄や妹とともに両親に連れられて、瀬波海岸に行ったものである。行くときはいつも安良町の停留所発の満員バスに乗った。女性乗務員が乗った小さい銀色の新潟交通バスは満員の乗客を乗せて結構速いスピードで運んでくれた。今と違い、その頃の瀬波海岸は砂浜が広がっていた。真夏の暑い太陽が砂を焦がし、波打ち際へ行く時に足に感じる砂の熱さが夏の海に来たことを実感させてくれた。父は水泳が得意で一人でどんどん沖合に泳いでいくが、我々兄弟は波打ち際で砂の城を作って遊んでいた。作ってはすぐに波に壊される砂の城。今でも寄せては返す波のリズムが思い浮かぶ。帰りにはバス停近くのお店での氷水が楽しみの一つだった。最初の一口でキーンとした頭痛が走る。火照った体と氷水の温度差。それも小さな思い出の一つである。
 高校の教員をしていた父が生徒たちといく桑川での海水浴にも連れて行ったもらったことがある。村上駅から汽車!に乗って行く。駅から海岸までずいぶんと歩いたような気がする。黒い岩肌と、瀬波とは違う海の透明さ。泳げない自分はカニの探索にいそしんでいた。
 旧村上高校のグランドから見る臥牛山はいつも圧倒的であるが、私には、いつも見守ってくれている様な親近感を抱かせてくれる。冬の七曲りは子供たちのスキー場であった。七曲りの一番上の段に行くと、日本海からの風の影響からか、雪がうねる様な形で積もっていて、滑ると、まるでシーソーの様に体が上下に揺すぶられた。昔は今より随分寒かったと思う。不安なこと、悔しいことがあるとよく天守閣跡まで登り、海、山、川の雄大な風景に心を慰められた。そして高校登山部時代はよくトレーニングで駆け上がったものである。
 村上を出てから半世紀が経った今。私は、瀬波海岸で泳ぎ、瀬波から桑川までの往復を自転車で走り、瀬波から村上の街中を走り、臥牛山の麓の村上市役所にゴールしている。そう、「村上国際トライアスロン大会」に毎年参加しているのである。
 山口県に勤務している時たまたま出会ったトライアスロン競技に魅了され、以来30年以上この競技を続けている。20数年前だったろうか、まだ父母が元気だった頃帰省して、たまたま店に貼ってあるポスターを見て、村上でトライアスロン大会が開催されていることを知った。今から振り返ると本当にローカルな手作り感いっぱいの大会であった。ランでは瀬波海岸周辺や三面川周辺を走っていたが、アジア杯や国体が開催され、エリート選手も参加する国内有数な大会に変化していく中でランも村上市内中心がコースになっていった。トライアスリートで村上大会を知らない人は少ないのではないかと思う。この様に徐々に洗練されてきた村上大会であるが、変わらないものがある。粟島を望む青い瀬波の海、岩と松の笹川流れ、そして、村上市内を走るときの応援のすごさ。ランは瀬波から瀬波小学校、村上駅、南線、肉のとおやま、安良町、小国町、肴町、田端町をめぐり、また南線に入り市役所にゴールする。応援してくれる人々の中に、小中高校での同級生の顔を見ることができるランは、この町出身のものでしか感じられない贈り物だと思っている。市役所敷地は青春の跡地である旧村上高校グランド。そして迎えてくれるのは臥牛山!いつも「よくやったね」と言ってくれている様な気がする。故郷を感じる新たなページが開いた。
 昨年は新型コロナの影響で残念ながら中止となってしまったが、再開されたら、体の続く限り参加していこうと思っている。



山本 文忠
(やまもと ふみただ)
昭和42年村上高校卒
石油会社勤務を経て、現在コンサルタント
千葉在住







瀬波は快晴です スタート前の緊張
(筆者)







桑川から瀬波へ
瀬波小学校のコーナー







フィニッシュするといつも笑顔になります


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