2018年7月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.198




ロダンの片腕、稲垣吉蔵氏



松澤 正
(まつざわ ただし)
昭和20年1月台湾台北市生まれ、小学校は越後寒川小、中学2年で村上中学に転校、村上高校(全15回生)、宇都宮大学を経て、現在埼玉県所沢市在住。
小学校時代から卓球が好きで通算60年以上続けており、これが生きがいとなっています。










筆  者












右端筆者
(村高同窓会関東支部にて)

 先の村上高校同窓会関東支部の会合に参加の際に先輩の佐藤勝さんから、私が以前読んで頂きたいとお送りした安冨良英先生の手記について「非常に興味深く読ませて貰った。ついてはこの事について村上市郷友会のリレー随筆に是非とも原稿を書いて貰いたい。」との依頼を受けました。そして当日ご来賓で参加の赤見会長さんにも紹介されいろいろお話することが出来ました。
村上高校卒業後、半世紀以上が経過しましたが、私は故郷のこと、一緒に学んだ皆さんのことを忘れたことはなく、テレビで村上が放映されるたびに食い入るように見て心躍らせています。
 そんな中で高校時代の恩師の安冨良英先生が生前に「櫻陰比輯」(オウインヒシュウ)という手記を出版されたことを知りました。この中には教師として、一市民として、また光済寺の住職として一生懸命尽くしてこられたことなどが詳細に書かれておりました。
 残念ながら先生は2009年に97歳で亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。
これは同級生にも是非読んでもらいたいと思い、増刷させていただきました。
この中で特に驚いたのは、世界的に有名な彫刻家の「オーギュスト・ロダン」の懐刀と言われた「稲垣吉蔵氏」は村上市出身で、安冨良英先生のお父さん(安冨成中氏)がフランスのソルボンヌ大学留学中に稲垣氏と知り合い、それ以来交流されたことが詳細に記載されておりました。
 このことを知って一番衝撃を受けたのは、世界的な彫刻家としてのロダンを知らない人はいないと思われますが、そのロダンを裏で支えた稲垣吉蔵氏のことが村上市出身の方にもほとんど知られていないということでした。これはあまりにも残念で、このままでは、村上市の貴重な人的・文化的財産が消滅してしまうのではと感じてしまいました。

 「稲垣吉蔵氏」は、明治9年(1876年)に村上市小国町で、宮大工の稲垣末吉氏の二男として生まれ、苦学して東京美術学校(現在の東京芸術大学)に入り、明治37年(1904年)に卒業。村上市郷土資料館の資料によると「明治39年9月 東京村上市岩船郡郷友会雑誌より」「村上市安良町の人 稲垣吉蔵氏 東美大の選抜により仏国へ留学を命ぜられる。石像彫に於いて秀才なり。」と記載されています。
 稲垣氏がロダンのアトリエで仕事をしたのは1912年から4年間とのことですが、1913年には文豪「島崎藤村」と出会ったことが藤村の旅行記「異邦人」の中に書かれています。ロダンは1917年に77歳で亡くなられました。
手記によると「稲垣氏は単にロダン翁の技術上の相手であっただけでなく、翁の晩年には秘書というべきもので、ロダン翁は何事も同氏の手を通じなければ喜ばなかったそうです・・・・・・・・・」
 稲垣吉蔵氏はフランス人と結婚、1男1女(長男は第二次世界大戦で死去)がおられましたが、フランスに渡った後一度も帰国することはなく、1951年(昭和26年)に76歳で亡くなられました。長女「シモーヌ」さんは、吉蔵氏と親交のあった安冨成中氏の後を受け継いだ安冨先生を訪ねて1992年(平成4年)に来日されました。
シモーヌさんによると、ロダンが生きている間、稲垣氏はかなりの彫刻をやっていたはずだが、サインは全部ロダンであり、その作品のどの部分に稲垣氏が関わったかということは証明することができないということでした。しかし、晩年のロダン作品のかなりの部分に助手たちが相当関わっていたようで、稲垣氏もロダンの作品の一部を頼まれてその制作に携わったようで・・・・・とあります。
 日本の各地の美術館には沢山のロダン作品があります。国立西洋美術館、静岡県立美術館内「ロダン館」、愛知県美術館、彫刻の森美術館、大原美術館、長島美術館など枚挙にいとまがありません。しかしながら、そこには「稲垣吉蔵氏」の名前はおそらくどこにもありません。このまま埋もれてしまうのでは稲垣吉蔵氏はうかばれません。
 激動の明治時代に、村上からフランスという未知の世界に飛び出した稲垣吉蔵氏の勇気ある行動とロダンの影に隠れて埋もれていた功績を表舞台に引き上げ、遺産として後世に伝えていくべきではないかと考えています。
 安冨良英先生は手記で「稲垣吉蔵氏は晩年のロダンに深く信頼されていた人物。何とか彼の遺品を村上に集めて資料館の一隅にでも展示できないか、というのが加藤紀代美さん※と私の願いでもある。」と記載しています。
 ※ 加藤紀代美さん(村上市久保多町出身でフランス在住:シモーヌさんと親交のある方で一緒に来日し通訳を務める。)
 シモーヌさんも訪日の翌年に亡くなられ、稲垣吉蔵氏の遺品等はシモーヌさんのお子さんが管理されているということですが、何とか稲垣吉蔵氏の功績を表舞台に引き上げる事ができないものかと思案しているところです。
 村上郷友会の皆さんにも是非「稲垣吉蔵氏」の功績を知って頂き、貴重な遺産を後世に伝えていく活動に絶大な応援・ご協力をお願いしたいものと思っています。それがどのような形でも郷土村上市の活性化に大いに繋がるのではないかと考えています。


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リレー随筆「鮭っ子物語」は、村上市・岩船郡にゆかりのある方々にリレー式に随筆を書いていただき、ふるさと村上・岩船の発展に資する協力者の輪を広げていくことを目的としています。 (編集部)
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