http://www.murakami21.com 村上広域情報誌2001
2016年11月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.185



「鮭と鯉と鮎と」



大滝 薫
(おおたき かおる)
いわふね新聞社代表取締役
    (事務所・村上市肴町)
昭和29年(1954)4月、旧朝日村板屋越生まれ、62歳
村上桜ヶ丘高校陸上競技部卒
亜細亜大学法学部卒
好きな言葉「怒らず、怖れず、悲しまず」





筆 者











昭和63年5月、東京での稲葉修さんの政界勇退パーティで竹下景子さんと(筆者撮影)


 小さなローカル新聞といっても、取材等で往来する様々な分野の著名人と接する機会はある。
 孫娘と結婚した男性が旧村上市出身ということで、元総理大臣の竹下登さんがSPを引き連れて村上にやってきたのは平成9年の11月。事前に「プライベートの訪問だから取材は遠慮してほしい」との連絡もあったが、素直に応じていたら仕事にならない。さっそく新潟日報の支局員とともに突撃取材を試みた。訪問先の市郷土資料館の周辺で待ち伏せしていると、SPに見つかり「取材はだめだ」と釘を打たれた。直接アタックをかけるも、険しい表情のSPたちに遮られ、再びのアタックの機会をうかがっていると、SPが寄ってきて、「10分くらいなら取材に応じる。写真撮影もいい」という。さすが気配り、目配り、もう一つの?配りは別として話の分かる竹下さんだ。
 初めてという村上の印象など、一通りの質問をした後で、前夜に鮭料理を堪能したという竹下さんに「鮭料理と鯉料理、どっちがお好みですか」と訊ねた。というのも、旧衆院2区選出の田中角栄派代議士の支援者の事務室に田中元首相と竹下さんがともに笑顔で「鯉こく」のお椀を手にしている写真が掛けてあったからだ。
 要は魚にひっかけて、自身も田中元首相と袂を分けた竹下さんに、田中さんとロッキード事件以降、やはり敵対のような関係となった稲葉修元法相とどっちの方が好きか聞きたかったのだが、あまりにひねり過ぎた質問だったためか、竹下さん下を向き、首を傾げたまま黙考している。そこで、田中さんの出身地は鯉文化、稲葉さんの地元は鮭文化であることも説明したのだが、やはり返答はない。もしかしたら竹下さん、どちらを答えても片方に悪いと、配慮しての無回答だったのかもしれない。返答次第では「やっぱり鮭より鯉(田中さん)」「鯉より鮭(稲葉さん)」など、記事の遊び心の副見出しも考えていたが、空振りに終った。
 その後、田中角栄さん関連の著書を読むと、角さんの好物は甘辛濃い目の「ブリ大根」、それも寒ブリが大好物でよく振る舞ったとあるから、竹下さんとの「鯉こく2ショット」も、あるいは旧3区、選挙区民向けのパフォーマンス写真だったのかもしれない。
 今では「村上の鮭文化」「三面川の鮭」も全国に知られるようになったが、流通や情報媒体が発達していなかった頃は、ほとんどが地元消費だった。長年、稲葉代議士の地元秘書を務めた宮本金作さんが平成23年から24年にかけて弊紙に51回連載し、本にもまとめた回想録『秘書一代』によれば、稲葉さんは昭和45年前から鮭のみそ漬け樽を多いときは600個ほども作らせていたという。秘書が塩引きとともに車に積み込み、三国峠を越えて東京に向かうのが毎年の師走の任務で、宮内庁を通じて献上していたほか、交友のあった全国各地の人たちにも贈っていたそうだから、現在、鮭の恩恵を受けている人々も先人たちのそうした努力に敬意を称すべきであろう。
 その稲葉さんだが、引退後の平成元年の夏、荒川での鮎釣り時に脳内出血を起こした。8月下旬、車いすで病院から村上に戻ってきたとき、報道陣からの「今、何が食べたいですか」の問いに「鮎の小味噌煮」と答え、「このくらいの」と、後遺症が残らなかった右手を広げて親指と薬指でサイズを表したことを覚えている。釣りが好きで、著書などでもふるさとの海や川、鮭や鮎を紹介していた稲葉さんは、村上・岩船地方の情報発信の先駆者、PRの大功労者でもあった。

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リレー随筆「鮭っ子物語」は、村上市・岩船郡にゆかりのある方々にリレー式に随筆を書いていただき、ふるさと村上・岩船の発展に資する協力者の輪を広げていくことを目的としています。 (編集部)
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