http://www.murakami21.com 村上広域情報誌2001 2006年1月号

   リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.56

稲葉先生と村上と
 村上との縁は、稲葉修先生との出会いに始まった。
 半世紀ほどタイムスリップすると、中央大学法学部教授陣には、現役で活躍中の各界のキラ星が集まっていた。その、三大巨星が、政界の稲葉先生、検事総長の花井忠先生、財界の水島広雄先生で、私は辞達学会で花井門下となり、4年で稲葉先生の行政法ゼミを選択した。講義の本筋より、ドイツ留学から政界、角界のこぼれ話、釣り談義の方が面白く、学生に人気があった。
 60年安保騒動の最中、教職実習も終えたが、国家公務員上級甲種試験も発表があって、デモシカ先生はやらずに済みそうだと思った頃、先生から「これからは経済の時代になる。旭化成を受けるなら、あそこは旧7帝大と早慶が原則だが、ワシが推薦状を書いてやろう」と声をかけて貰い、学校推薦の他の2社から内定を貰っていたが、魅力ある会社なので挑戦することにした。運良く内定を貰って報告に行ったところ、11月選挙になったので、都合ついたら村上へ行って応援してくれないかと問われ、良い経験になると思いOKした。
 三之町の先生宅(文化財若林邸)に起居を許されたが、廊下に吊るされた鮭の干物は壮観だった。このお陰で「鮭の子」(人材)が育つという。1ヶ月余り、忙中閑で、城址や簗も訪ね、岩船から東蒲原・中蒲原の錦秋を満喫でき、人情の機微に触れてほれ込んでしまった。
 選挙は諸準備から手伝わせてもらった。運動期間になると、朝は5時起き、その日の運動の一番遠いところへ乗込み第一声をあげる。砂利道をトヨペットに組み上げた枠付き宣伝カーで駆巡る。通学時間になると生徒が追ってくる。「父さん母さんに、稲葉修をよろしくナ、頼んだゾー」。昼飯は後援会有力者の家でご馳走になる。食に関しては候補者と同格に扱ってもらえた。人家のすくないところはスピードアップ。砂利道は、腹を鍛える道場だ。街頭運動の時間が終わると、個人演説会。渡辺美智雄先生が時々栃木から応援に駆けつけて下さった。私は弁士不足のとき、美智雄先生の到着までの時間繋ぎを受持った。集まった支持者を飽きさせないように、稲葉先生の大学での活躍状況を先生の言葉を借りて報告する。
「力士は瞬間が勝負だから、頭が良くなきゃダメだ」「国会議員は体が強けりゃ勤まる」「最近は、形は良いが中身がまずい養殖アユ議員が多くなった」「ろくすっぽ勉強もしないで、金アサリが議員稼業だと勘違いしている議員もいる」「政界浄化がワシの仕事だ」「世間ではわしが選挙下手だというが、90票差でも、当選すれば任期は同じなのだから、本当は上手いんだ」等など。翌日の準備を済ませ、就寝は、深更に及ぶ。鮭の付け焼きが美味かった。
 先生は低空飛行で当選。私は手伝いに行って4Kg太って帰り、辞達学会の仲間や友人から「お前真面目にやってきたのか」と揶揄された。
 先生に褒美に頂いたスーツは、今も家宝として大切な席には着用させてもらっている。
 人は出会いで運不運が決まるという。私が村上を始め新潟2区で出会った人々は、私に幸運をもたらしてくれた恵比寿大黒ばかりだった。
 世の中、狂ってきたようだ。「刺客」「くノ一」、マスコミの増幅で、小学校にも及ぶ刺殺頻発の世となった。存命なら何といわれるだろう。先生のように政界浄化には手がつかないが、門下生として、世直しの一部は手伝わせてもらう決意である。


 
磴 正雄
(いしばし まさお)
日本ライフ株式会社顧問
中央大学政策文化総合研究所 客員研究員 同世直し辞達塾代表幹事
中央大学学員講師・学員会協議員
(社)北海道倶楽部 参与
稲葉修先生顕彰会 事務局長



著 者(2005/12.1撮)


稲葉 修先生 遺影


動けるうちは筆を友として
闘病生活を送られた
(平成3年春)


(重要文化財 武家屋敷 若林邸)
清貧に甘んじた
稲葉 修先生の旧住居(村上市)


滋賀県鮎苗漁協連合会(昭和57年)
(社)日本の水をきれいにする会 
会長 稲葉 修


三重県美杉村竹原 鮎供養塔(碑)
裏面「昭和50年12月建立 
法務大臣 稲葉 修

リレー随筆「鮭っ子物語」は、村上市・岩船郡にゆかりのある方々にリレー式に随筆を書いていただき、ふるさと村上・岩船の発展に資する協力者の輪を広げていくことを目的としています。 (編集部)

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