2020年6月号
  リレー随筆 「鮭っ子物語」  No.201



トロントからふるさと村上へエール   


私が村上市に住んだのは高校2年生の5月から卒業までの2年足らずである。その後大学進学のため村上を離れ、就職、結婚、カナダへの移住で、次に村上を訪れたのは、両親が東京で定年退職し、地元ではなかったが転勤で住んだことのある村上へ定住するようになった80年代初期のころである。私は、トロントから子供を連れて夏に数週間づつ里帰りすることを繰り返した。両親が亡くなり、実家の整理のため毎年村上を訪れその整理も大方目処がつき、数年前から少しづつ村上滞在を楽しみ始めたところである。

昨年の秋 、御茶ノ水の東京ガーデンパレスで開催された村上高校19回生関東同期会に初めて参加した。卒業以来半世紀以上を経る同級生との再会にドキドキする思いで出かけた。同期会メンバーにとって私はこの半世紀の間、消息不明ということになっていたらしい。3年6組からは私を含め3人の参加だった。同期会の開催を知らせてくれた奈良橋君には以前お会いしたが、「鮭っ子物語」の執筆を勧めてくれた安冨君とは、52年ぶりの再会。全校生を集めての生徒会集会の際、講堂のステージで「トルコ行進曲」を軽やかに弾いていた姿は覚えていた。てっきり、音楽関係の道に進まれたと思っていたが、大学で教鞭をとり退職した現在もアメリカに渡った「戦争花嫁」の研究を続けているとの事。

私は戦争花嫁ではないが、彼女たちと同じく国際結婚者であり、結婚を機にカナダに移住し、トロントでの生活を始めた。カナダでのキャリアを築くために、子育てと仕事を両立させながら、トロント大学大学院で図書館情報学を学び司書の学位習得。司書として40年近く仕事を続けた。
第2の故郷、トロントはオンタリオ州の州都であり、美術館、劇場、コンサートホールなど一流の文化施設を多く備えたカナダ最大の国際的商業都市である。今は、高層ビルが林立するダウンタウンも、私がトロントに移住した当時は、わずか2、3の高層ビルがポツンと立っているだけであった。現在、トロント市の人口は約300万人で、世界各地からの移民が多い街である。カナダは、戦争や紛争から逃れる難民や、より良い生活を求めて移住する人々を長年受け入れている。その多くがトロントに居住し、戦前はイタリア、ドイツなどヨーロッパの国から、近年は中国、東南アジア、インドやカリブ海の国々からの移住者が多い。そのような中、戦前に移住してきた日系カナダ人、戦後は日本人新移住者やワーキングホリデーで訪れる日本の若者など、日本人をルーツに持つ人々も住む 。カナダでは多様な文化を大切にする多文化主義が根付いており、多くのエソニック・コミュティーは、文化センターを要し自国の文化や伝統の継承を行っている。中でも日系文化会館The Japanese Canadian Cultural Centre https://www.jccc.on.ca/jp/
は、お正月会、日本映画祭、盆踊り大会など、さまざまなイベントを開催し日本をルーツにもつ日系コミュニティのみならず 、広く一般カナダ人にも愛される会館である。おかげで、人生の3分の2をトロントで暮らす私も、日本との絆を保ち続けることができ、たくさんの友人たちにも恵まれている。

退職後、ヨーロッパ各地への旅を楽しんできたが、同時に村上に数週間づつ滞在して時間をかけて村上の再発見をしている。私の両親は定年退職後東京から移住し、実の娘達は千葉や遠いカナダにお嫁に行ってしまったが、村上の親切な方々に支えられて 村上での生活をたのしみ一生を終えた。両親の愛した村上は、豊かな自然にめぐまれ、美味しいお米、お酒、鮭 お茶の産地である。また城下町としての古い歴史をもち、堆朱やおしゃぎりなどにみられるすぐれた伝統工芸を伝えている。
私が退職し村上に長く滞在するようになったこの2、3年は、トロント、東京在住の私の友人たちが入れ替わり、立ち替わり村上を訪ねてくれるようになった。瀬波温泉、おしゃぎり会館、お城山、つつじの頃の庭園めぐり、鮭の専門店きっ川、黒塀通りを歩いて割烹新多久での鮭尽くしのランチを食べ、冨士美園でお茶をして、六歳市を見てなどが典型的な案内コースである。訪れた人々は皆村上のファンになってくれて嬉しかった。しかし、日本の地方の街はどこでも同じだと思うが、80年代に賑わっていた大町の商店が帰るたびにシャッターをおろし 、今はさびれたシャッター街になっているのを目にするのは忍びない。一方で、駅のホームにエレベーターがつき、駅前に観光案内所ができ、古い街並みを再現する町屋づくりに励み、年間をとおしての 色々な観光イベントの企画を行い、街ぐるみで活性化につとめる様子が年ごとにうかがえるのは大変嬉しい。また、昨年は瀬波温泉に宿泊したついでに温泉の向かいに新しくできた国際級の村上スケートパークをじっくり見せてもらった。10年前にこれが建っていたら、当時スケボーが大好きだった息子がどんなに楽しんだことか。

トロントでは3月中旬より新型コロナウイルス感染防止のため、ロックダウンが続いている。私たちは、週一の買い物と近所の散歩以外外出自粛生活をもう2ヶ月以上続けている。そして今日、トロント市長は全学校を学年末の6月末まで閉鎖すると発表した。まだ先の見えない日々が続きそうだが、一日もはやいコロナの終息を願い、平和な日常が戻る事を願ってやまない。

新型コロナウイルスが村上の人々や産業にひどい打撃を与えていないことを心より願っている。また、終息した後に私の愛する村上の街がますます発展をとげるようトロントから熱いエールを送りたい。
                     (2020年5月20日記)



リリーフェルトまり子
(旧姓 小竹まり子)

北海道で生まれる。1967年(昭和42年)村上高校卒業(第19回生)
1974年(昭和49年)カナダに移住。以来トロント市在住。
2017年(平成29年3月)国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
トロント日本文化センター図書館退職














自著、司書の記録を手にして















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リレー随筆「鮭っ子物語」は、村上市・岩船郡にゆかりのある方々にリレー式に随筆を書いていただき、ふるさと村上・岩船の発展に資する協力者の輪を広げていくことを目的としています。 (編集部)
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