| 新潟動物ネットワーク No.262 |
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| 佐渡に息づくいのちの繋がり 〜アニマルウェルフェア助成事業・夏の現地訪問記〜 |
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| “アニマルウェルフェア(AW)”とは動物ができるだけ快適に、健康的に、動物らしく生きられる環境を整える考え方です。牛や豚、鶏などの畜産動物たちも「痛みや恐怖を感じず、自由に動き、自然な行動をとれること」が大切です。 この理念を実現するために、NDNでは今年4月から新潟県内の農業者や教育機関を対象とした助成制度をスタートしました。 8月にAW助成事業事務局、助成事業の外部審査委員である佐藤衆介先生にご同行いただき、アニマルウェルフェア(以下AW)助成事業助成先の現地視察を含めて佐渡の3つの農場を訪ねました。 【佐渡の豚屋(養豚)】 この農場では、母豚の“つぶちゃん”と7頭の子どもたちが、小学校の校庭と同じくらいの広さ程の広大な放牧地で、走り回り、遊び、泥浴びをしながら思い思いに暮らしています。 今回の助成金は、畜舎や放牧地の修繕工事に使われています。これはお母さん豚を増やして、放牧養豚の輪を広げていくための大切な一歩です。 かつて豚舎の中で豚を育てる養豚場で働いていた米澤さん。 国内の多くの養豚場ではこうした豚舎の中で限られたスペースで豚たちが飼育されています。給仕や清掃の管理がしやすい、喧嘩や怪我を防げる、飼育スペースが省けるというメリットもありますが、豚は好奇心旺盛で、とても知性の高い動物。感情豊かで、繊細で、複雑な心を持ち、数十種類の鳴き声を使い分け、仲間と気持ちを通わせながら生きています。 「ここでは、豚たちが土を掘って、風を感じて、生きている」 米澤さんの思いは、豚舎ではなく広い放牧地という形になり、子豚たちが草地を走り回り、お母さん豚がゆったりと横たわって風に耳を傾ける姿、そこは「管理のための場所」ではなく豚たちの「暮らしの場」であることを語っていました。 公式HP:https://sado-pork-farm-fxg022l.gamma.site/ 佐渡の豚屋ブログ:https://ameblo.jp/sado-berkshire-pig/ NDN訪問記ブログ:https://ameblo.jp/ndn-joutokai/entry-12926715786.html |
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| 【小岩井牧場(酪農)】 この牧場では、かつて耕作放棄地となっていた土地を借りて、牛たちのための草地として再生する取り組みが進んでいます。 小岩井さんは神事を扱う馬、肉牛、鶏などを飼育しながら自給自足に近い暮らしをしています。 ここでは「母子を引き離さず離乳までずっと一緒に過ごす酪農スタイル」。お母さんが子どもに寄り添い、子どもがお母さんに甘える。そんな穏やかな日常が、自然豊かな風景にすっかり溶け込んでいました。このスタイルは日本ではまだ珍しいものですが、欧米ではアニマルウェルフェアの観点から注目されています。 今回の助成事業では、牛が健康に育つための栄養価の高い草地の改良や母子共にストレスが少なく離乳できるよう整備も少しずつ進めているところです。一方で、自然放牧にはアブやブヨ、サシバエなどの虫害といった課題もあります。 夏の間、牛の体に虫が寄りつくことも多くあり、それは「自然の一部」ではあるものの牛にとってのストレスでもあります。 私たちスタッフも現場に出向かなければ気づかなかった自然の厳しさです。この問題には虫が少ない場所への放牧地への誘導などで小岩井さんも対策に取り組まれていました。 来年の春以降、新たにお母さん牛が命を授かり、いずれ親子で健やかに過ごす姿が見られることを期待しています。 NDN訪問記ブログ:https://ameblo.jp/ndn-joutokai/entry-12926716302.html |
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| 【堂林牧場(肉牛)】 佐渡の中央部、山あいの高原地帯に広がる堂林牧場。 ここでは約20ヘクタールもの放牧地を7つの区画に分けて管理しています。電気柵を整備し、草の状態や天候を見ながら放牧地をローテーションしています。 風が抜け、遠くに海を望む丘の上で、放牧牛たちがのびのびと草を食みながら過ごしていました。 堂林牧場は、佐渡市の市営で「公共牧場」と呼ばれる形をとっています。これは、島内の酪農家や肉牛農家が飼育している母牛(繁殖牛)を一定期間預かり、代わりに飼養・繁殖・育成を行う牧場のこと。 島の各地で牛を飼っている農家さんたちは、春から秋のあいだ母牛を堂林牧場に預け、牛が自然の中で自由に動き、丈夫に育つ環境を確保するためです。 この仕組みには、いくつものメリットがあります。〇農家さんにとっての利点 ・放牧中は飼料給与や清掃の手間が省けるため、労働負担が軽減される ・牛が運動し、自然の草を食べることで健康状態が向上する ・妊娠・出産も牧場スタッフの管理下で行われるため、繁殖成績が安定する 〇 牛にとっての利点 ・広い草地で自由に動けるため、筋肉がつき、足腰が強くなる ・群れの中で社会性を保ち、ストレスが少ない ・自然光・風・雨といった刺激が免疫力を高める牧草が茶色く枯れてしまった年もある中、芝が根をしっかり張っていたのは、職員の方たちの手入れの良さと佐渡の環境の良さが両輪だからだという外部審査委員からのお話。 この牧場を訪ねて改めて感じたのは、「放牧という選択」が、単に“広く使う”ことではなく、地形・気候・土壌・草地の種類・風の通りなど多様な自然条件が一体となって、牛が主体的に動ける環境をつくっているということ。 そして、公共牧場の存在は、農家の労働を支え、牛たちの健康を守る大切な仕組みです。堂林牧場は、佐渡の畜産を陰で支える「見えないインフラ」でもあります。 NDN訪問記ブログ:https://ameblo.jp/ndn-joutokai/entry-12926716905.html |
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| 佐渡は日本海に浮かぶ島。海からの風が流れ、草地も潮風も受けて、「島」という閉ざされた環境や寒暖の差がある気候が、草の種類・土壌・病害虫の発生などにおいて内陸とは異なる特性を持っています。例えば、堂林牧場では芝が傾斜地でも根をしっかり張っていたり、佐渡の豚屋さんでは水はけのよい砂地や寒暖差のある気候のおかげで微生物や寄生虫が定着しにくい土壌環境になっています。 さらに、佐渡ならではの放牧畜産という視点も希少です。例えば、放牧養豚は全国でもまだ数が少ないという中で、佐渡の豚屋さんが「土を掘り、風を感じ、生きている豚たち」を掲げているように、希少なスタイルを持つこと自体が価値になります。 佐渡の3つの農場を巡って、私たちが見たのは、「うまく生産する・効率を上げる」といった言葉だけでは語れない「動物自身が選び、動物自身が暮らすその場所を、人が少しだけ整えて寄り添う」そんな姿でした。 3つの農場、それぞれが異なるスタイルながら、共通しているのは「動物たちへの敬意」と「自然と共存すること」です。 これからも、動物にも、人にも、地域にもやさしい畜産の輪が、佐渡から静かに広がっていくことを願っています。 |
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| 2025年11月1日 新潟動物ネットワーク アニマルウェルフェア班 瀬川綾子 |
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