新潟動物ネットワーク  No.251



「食肉処理施設でのアニマルウェルフェアの必要性」
勉強会報告 



今年も残すところ1ヶ月になりました。

村上広域情報誌での掲載も251回になりました。多くの発信をさせていただきありがとうございます。
 



 
念願が叶い、11月11日(月)、講師にアニマルウェルフェア畜産協会事務局長の奥野尚志さんをお迎えして、「食肉処理施設でのアニマルウェルフェアの必要性」というテーマで勉強会を行いました。出席者は32名。そのうち半数以上が食肉処理に携わる関係者の方々でした。


冒頭、奥野さんからわかりやすいお話がありました。食肉処理施設は、私たち誰もがその恩恵を受けている「食」の過程で必要不可欠です。一方で過去の歴史から施設を否定的に捉えられることもあり、情報をあえて発信しない、公開しない、閉ざされた施設になってしまったとのこと。家畜のアニマルウェルフェアも取り残されてしまった。しかし、と畜場でのアニマルウェルフェアの向上は、動物たちのためだけではなく、品質の向上、そこに働く方々の精神的負担の軽減、労働環境の向上、その先の雇用確保にもつながり、食肉産業を持続可能なものにするために大切な課題とのことです。また、私たち誰もが消費者であり、当事者でもあるのだと。スーパーでパック詰めで販売される肉が、「命ある存在」から「食」に変わる大切な場所がと畜場です。多くの人が関心を持ち、関係者はもっと発信していくことが大切だとのお話でした。

奥野さんは、長年、北海道で食肉処理施設に携わっています。獣医師になり、食肉処理施設に勤務して1,2ヶ月くらい経ってから、違和感を感じるようになったそうです。自分にとって当たり前のことが当たり前ではない。例えば、「水」。奥野さんの調査(2010年から2012年にかけて)では、ホルスタイン去勢牛18か月齢では、平均16時間ほどの係留時間に24リットルもの水を飲むそうです。その時の調査では約半数の施設で飲水施設は常備されていないことが分かりました。豚では約8割の施設には飲水設備がなく、生体洗浄用の水を呑んだり、床に溜まった水を飲んだりするしかないということです。理由は法律に決められていない、増設する予算がない、過去の慣習から肉質が落ちると迷信がある、思わぬ事故につながる恐れがあるからとのことですが、最後を過ごす施設で水すら飲めない、五つの自由というまでもなく、おかしいと思うそうです。

「照明」や「床の素材」なども課題として挙げられていました。明るいところから暗いところに入るのは誰だって怖いです。開放的な入り口、適切な照明によって嫌がる動物を無理に追い込まず作業時間の短縮や、働く人のリスク軽減にもなります。床の素材を配慮することで動物たちは歩きやすくなる。過去には、滑りやすい床を改善することで、家畜の行動にも改善が見られたとのお話もありました。

生産者さんから連れて来られる様子でも感じることがあるそうです。汚れた体の牛と、綺麗な被毛の牛。起立不能で緊急搬入されるトラックに水の入ったバケツが置いてあり藁が敷かれている牛と、トラックの鉄の荷台に直に積み込まれているだけの牛もいます。大切にされている動物の方が精神的にも安定しており、搬入時のハンドリングは楽な場合が多いそうです。無理な誘導で尻尾が骨折していたり、牛の尻尾を切ってしまう農家さんもいます。関西ご出身の奥野さんは、軽妙な関西弁でソフトにお話されていましたが、誰かを非難するのではなく、ほんの少しの配慮で人も動物ももっと幸せになるはず、との気持ちがひしひしと感じられました。

奥野さんは有志で2023年に獣医師(と畜検査員)を対象とした食肉処理施設のアニマルウェルフェア勉強会を立ち上げたそうです。現在の日本にはまだない食肉処理施設のガイドラインの設置や、と畜に関する技術の向上と普及を目指しています。アニマルウェルフェアというのは、大きな施設がなくては実現できないものではなく、輸送や搬入、スタンニング、起立不能な動物の扱いなど、行動学によって裏打ちされた技術を学び、広めて行きたいそうです。勉強会には新潟県の獣医師も複数参加しているとの嬉しいお話もありました。2022年に新潟県獣医師会の佐藤会長が日本獣医師会雑誌で発表された「と畜場における家畜の扱いに関する国内外の規定」も根拠となる大切なデータとのことでした。EUではと畜場に関する多くの規定があり、米国がそれに続き、日本ではほとんどないそうです。

奥野さんが目指すのは、当たり前のことが当たり前になる社会とのことです。最近で何より嬉しかったのは、と畜のことを学んだり、見学を通して考える若い方々の感想文や向き合う姿勢だと紹介してくださいました。見学会を経験した子どもたちはたくさんのことを考えてくれています。未来を担う子どもたちにもっと知って欲しい、考えて欲しい。これまで多くのご苦労があったと思いますが、それを超えて時代が変化している未来を感じる勉強会になりました。奥野さん、参加された皆様、ありがとうございました。 

来年が人にも動物たちにも、もっと優しい社会になりますように。


新潟動物ネットワーク
 代表  岡田朋子
令和6年12月1日


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