新潟動物ネットワーク  
No.204



        
   熊と人の共存活動

     ~軽井沢のクマ保護管理の体験記~(後編)

 



前編ではピッキオの熊との遭遇予防活動について焦点を当てました。この後編では罠にかかった熊たちの救助活動について私達のボランティア体験兼取材を通して紹介していきます。

体験談の前に罠について説明しましょう。多くの熊が鹿や猪を捕えるために設置された「くくり罠」にかかってしまいます。くくり罠とは木に金属製ワイヤーがくくられており、その先が輪っかになっていて、地面に埋められています。もし動物たちがその上を通ると強力なばねで輪っかが締め付けられて捕まる仕組みです。当然ながら罠は動物達の区別をつけられるように作られているわけではなく、林内や川沿いの獣道に置かれます。そこを通った動物はその種類に関係なく捕らえられてしまいます。そして、かかった動物は時には長時間にわたる痛みを味わうことになります。私達がピッキオにお邪魔した8日間、多くの熊たちがピッキオに救助されました。私と主人が関わることができたのは8頭の熊たちでした。その8頭に関わる体験全てをレポートしたいところですが、今回の記事では、そのうち最初の2件のみ紹介します。





 


1日目のオリエンテーションを終え、軽井沢到着2日目から実際に熊チームメンバーと共に活動開始です。朝9時にオフィスに行くと既にあわただしい模様。罠にかかった熊の緊急通報が入り準備にかかっていました。何も分からず別荘地の曲がりくねった細い道をかけ抜けるピッキオの車の後に続きます。熊の発見者と町の職員の方々と落ち合い、一路現場へ向かいます。畑道と林道を通り、たどり着いた森の中。よく見ると川のそばに子熊の姿がありました。母熊が周辺に隠れているらしく非常に危険な状態です。わが子が何時間も罠にかかった状態では、母熊は気が立っていることでしょう。まずはスタッフの1人が数メートル先の河原に降り状況を確認します。目視で熊の大きさを推測し使用する麻酔の量を決めます。その後、銃の資格を持つスタッフが下草をかき分け再び河原へ。母熊に気をつけながら麻酔銃を撃ち、罠を外して私たちが待つ林道へ子熊を運びます。その間、他のスタッフのメンバーはビニールシートや調査に必要な器具の準備にかかります。子熊は麻酔から覚めるのが早いため速やかに作業を進めなければなりません。もちろん母熊への注意も怠ることができない状態でした。捕獲した熊の体重や体長、手の大きさや首回り等、細かい部分まで測定していきます。歯の状態を記録し採血をします。同時にダニ、毛、糞を採取するといった一連の作業が数人のスタッフによって淡々と進められていきます。これらの採取物は調査のため大学等研究機関に送られます。全てが終了するのに30分程かかったでしょうか。はっきりとは分かりません。初めての体験、そして状況を考えると邪魔にならない位置で見ていることしかできない私達でした。子熊はまだ6キロ程と小さく、まるでぬいぐるみのよう。大きないびきをかいて横たわっている姿は我が家で飼っていた黒犬のような可愛らしさでした。全ての処置が終わり、眠る子熊をスタッフが元の位置に戻します。私達が立ち去ればおそらく母熊が迎えに来ることでしょう。


                    


オフィスに戻ると既に次の緊急通報が入っていました。休む暇もなく出発します。畑と森の間に設置されたフェンスを開け森に入ります。草木が生い茂り、車が通るのが難しい状態。私達は車を降り徒歩で現場へ。様々な道具を入れたピッキオの車だけが草木をかき分け進んで行きます。現場近くに私達が到着すると木々の後ろからただならぬ音がしていました。罠にかかった熊が大変興奮しているとのことでした。しかもかかっている部分に問題があり外れてしまう可能性もある状態。麻酔銃の担当者以外、全てのスタッフは現場の車で待つよう指示を受けます。スタッフが横からゆっくりと熊に近づいていく間も興奮し暴れている熊の様子が木々の動きから分かります。ずいぶん時間が経ったと思われたころにやっとスタッフが帰ってきました。その後、麻酔が効くまで車内で引き続き待機。最終的に熊の様子を確認したのもやはり麻酔担当の経験豊富なスタッフでした。最初の子熊同様、罠を外し約45キロの熊をビニールシートの上に運んでいきます。周辺に設置された他の罠を確認していたスタッフの報告により大変なことが分かりました。十数メートル離れた場所に2頭の子熊がそれぞれ違う罠にかかっているということです。捕えられた子熊は泣き叫びながら母親を呼んでいたにもかかわらず母熊はわが子のもとにも行けない状態だったのです。母熊がパニック状態にあったはずです。彼女が捕まった場所に行くと木には爪痕、罠には深い噛跡がありました。子を守る母親の気持ちに種の違いはありません。


 








   


   


1頭救助が急遽3頭に変更されましたが1頭ずつ対処していくしかなく、既に捕獲した母熊の調査を始めます。今回はある程度手順が分かっていたので微力ながらダニ採取等を私達も参加できました。母熊と子熊2頭が罠にかかってしまったという状況に動揺を隠せない私と主人に、更にショックな事実が明らかになりました。母熊の後ろ足1本が欠損していたのです。スタッフによると、くくり罠は強いばねでワイヤーを締め付けるため長時間かかった状態であったり、暴れたりすると切断又は血流が妨げられ体の一部を失ってしまうケースがあるとのことでした。また、足を引きちぎって罠から逃れる個体もいるとのこと。母熊の足の無い様子にいたたまれない気持ちになります。母熊を檻に入れ子熊達を救うべくスタッフたちは一連の作業を進めていきます。子熊達は恐ろしさのあまり罠を思いっきり引っ張っていたのでしょう。ワイヤーで絞められた小さな足は膨れ上がっていました。調査作業の間、少しでも手の空いたスタッフや私達はマッサージをして血流を促します。この3頭の親子はより安全な場所に移され麻酔から覚める頃に放されました。彼らがもう二度とくくり罠にかかることのないよう、人間から離れているよう祈るばかりです。しかし人間は彼らの生活を脅かし続けます。3頭が捕らえられた付近には12ものくくり罠が仕掛けられていました。


 


それらの罠は農作物を荒らす鹿や猪を捕えるために仕掛けられました。近年、鹿の頭数は増え続け畑に多大な被害を及ぼしています。しかし、その鹿が増えた大きな原因の一つは人間が鹿の捕食者である狼を絶滅させたことです。また地球温暖化により鹿の活動範囲は広がっています。3頭を捕獲した森の入り口のフェンスを出ると、畑での農薬散布が行われていました。スーパーには形の整った野菜のみが並び、人々はそれが普通のこととして毎日を過ごしています。

そんなことを考えるとやりきれない感情が湧きあがります。人間という種のエゴ。未来への不安。殺すべき種とそうでない種、その線引きは人間という種の価値観で引かれています。そんな負の感情に少しの希望を与えてくれたのがピッキオで休みなく働くスタッフと素晴らしいベアドッグ達でした。

この記事では私達の体験談全てやベアドックに関してご紹介することができませんでした。またいつか機会がある時に是非詳しくご紹介したいと思います。


















新潟動物ネットワーク/イベント班・猫班
梶浦 麻子
令和3年1月1日掲載
 


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